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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 三学期
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終業式

「このクラスは今日で終わりだ」

 田中先生はそう言って、少し唇を引き締めた。わたしたちはしんみりしながらそれを聞く。さっき、終業式が終わった。三学期が終わってしまったということなので、本当にもう終わりだ。

「来年は皆別々になるけど、子供じゃないんだからそればっかり考えるんじゃないぞ。受験のことを考えて、勉強して、しっかりやるんだぞ。おれも応援してるから」

 田中先生は日焼けが薄くなった頬を緩めた。わたしたちは同時にほっとしたような空気に包まれ、お互いを見た。わたしは光と目を合わせた。始業式に席替えして以降、ずっと近くの席だったのだ。受験をするなんて、遠い未来だと思っていた。でも、その日はわたしたちの歩む先に確かに待っていた。先生が「応援してる」と言ってくれて、とても嬉しかった。あまりちゃんと話したことはなかったけれど、わたしは今、苦手だった田中先生のことが好きだった。若い教師である田中先生は、去年よりずっと笑顔が増えていた。教師業に慣れてきたのかな、と考える。

「じゃ、これで今年度のホームルームは終わりだ。解散!」

 わたしたちはくすくすと笑った。先生はにっと笑って壇上から降りた。たちまち他の生徒から囲まれる。皆、先生と話したいらしい。わたしは寄ってきた光と話し始めた。光は軽くため息をつき、「寂しいね」と言った。

「歌子とも、他の皆ともお別れ。来年度同じクラスになるかもしれないけどね。歌子、S大学を目指すって言ってたっけ?」

 地元の国立大学の名前を挙げて、光はわたしの顔を覗き込んだ。わたしはうなり、「一応」と言った。レベルとしてはS大学でちょうどいいくらいなのだ。ただ、本当に行くかはわからない。光は大きくため息をついた。

「そっか」

「どうして?」

「ううん」

 光の言いたいことはよくわかっていた。わたしの学校では三年生のクラス分けが目指す大学や成績のレベルによって決まるのだ。光とわたしとでは、同じクラスにはなり得ないだろう。あくまでも彼女は成績がよく、わたしは中くらい。目指す大学も成績相応のところを選んでいるから、きっとそうだ。彼女は寂しそうにわたしを見ている。わたしは彼女がそれほど友情を感じてくれていることが嬉しかった。

「今年度中に歌子ともっと仲良くなりたかったけど、あと一歩迫れず。残念だな」

「あと一歩なの?」

 わたしは笑う。彼女はにこにこ笑い、

「まあ、来年度頑張るよ」

 と拳を作った。この様子では、クラスが別になっても仲良くしてくれるつもりらしい。

 光と別れて、夏子と美登里に話しかけた。二人は微笑み、わたしの肩を叩いた。この二人はずっとわたしによくしてくれた素敵な友達だ。どうやら最近はすっかり親友になったらしく、気の置けない会話をよく交わしている。

「わたしたち、きっと同じクラスになるよね」

 美登里の言葉にわたしたちは笑う。わたしたちの成績は皆中くらい。きっとそうだろう。美登里が言う。

「今年度は色々あったね。いいこともたくさんあった。歌子や夏子と友達になれたことは、わたしにとってすごい収穫だよ。今まで、本当の友達ってほとんどいなかったもん」

 夏子が照れたように笑って頭を掻く。わたしもにこにこ笑っている。

「美登里も歌子も、苦手かなーって思ってたの。つき合ってみればいい子じゃんって思った。わたし、二人と友達になってよかった」

 夏子はわたしと美登里を見る。白と茶のツートンカラーの眼鏡の奥にあるその目はきらきら輝いていて、わたしたちにエネルギーを与えてくれるくらいだった。わたしはうなずき、こう言って笑った。

「二人とも、わたしの友達になってくれてありがとう。それしかない。本当に、本当にありがとう」

 二人がうなずき、わたしはまた肩を強く叩かれた。

「何か、お別れみたいだね」

 と美登里。

「だね」

 と夏子。わたしは首を振り、

「いやいや、来年度もよろしく、って話じゃん」

 と笑った。美登里と夏子はうなずいた。そして歯を見せて笑った。

 同じクラスのたくさんの生徒と言葉を交わした。皆笑顔で、寂しいと言い合った。舞ちゃんはその中をするりと抜けて待ち合わせていたらしいあやちゃんと合流し、レイカは大袈裟なくらい寂しさを表現して友達と別れを惜しんでいた。坂本さんはいつものようにレイカのそばにいて、一緒に笑っていた。

 このクラスとはお別れか、と急に本当の寂しさが湧いた。本当に、色んなことがあった。数えられないくらいたくさんの出来事。正や負の感情が、それぞれに付随している。

「なーにたそがれてんだよ」

 背中を叩かれ、前のめりになってから振り向く。拓人が笑っていた。このクラスのでの彼との記憶もたくさんある。わたしはうなって考えた。拓人が不思議そうにわたしを見る。

「拓人も、ありがとう」

 わたしの一言に、拓人が首を傾げる。

「一年間、ありがとう。これからも仲良くしてほしい」

「何言ってんだよ」

 拓人が顔全体で笑った。

「当たり前だよ。幼なじみとして、これからも全力で応援してる」

 わたしは力に満ちた気分になり、にっこり笑った。

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