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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 三学期
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拓人と片桐さん

 月曜日には、拓人と片桐さんはすっかり元通りになっていた。微笑み合いながら廊下を歩くのにばったり会い、二人はわたしに笑いかけてから行ってしまった。片桐さんはとても幸せそうだった。

「ちょっと、歌子。何かやった?」

 一緒にいた渚が訊いた。わたしはとぼける。渚は唇を尖らせてわたしを見る。

「歌子が浅井に余計なお節介をして、妙な恨み買ったり恋心を燃え上がらせたりするのを心配してたの。全く。あたしの心配を多少は気にしてよね」

「ごめんごめん。でも、拓人はもう、わたしのこと全然恋愛対象として見てないよ。この間、わかった。わたしたちは、もうただの幼なじみ。助け合うことがあっても、お互いを強く想ったりはしないと思う」

 わたしの言葉を、渚が不思議そうに聞く。それからこう言う。

「歌子、何だか大人の女。かっこいいよ」

 渚の笑みを、わたしはくすぐったいような気持ちで見た。

 二組の教室に入ると、総一郎がいた。こちらを見て歯を見せて笑う。わたしは総一郎の前の席に滑り込むと、彼に顔を向けてこう言った。

「拓人、片桐さんと仲直りしてたよ」

「ふうん」

 総一郎はどうでもよさそうな顔だ。

「拓人のこと、嫌い?」

「別に」

 総一郎は目を泳がせて答えた。この反応は、少なくともよくは思っていないということだな、とわかった。

「大丈夫。わたしはずうっと総一郎と一緒だよ」

 わたしが微笑むと、総一郎はかすかに笑って、

「また堂々と言ってくれるな」

 と少し赤くなる。渚はくすくす笑っている。わたしは何だか拓人たちの幸せを分けてもらったような気持ちで、総一郎の顔をじっと見つめて笑った。校庭から運動部のかけ声が聞こえてくる。教室には何人か生徒がいて、それでもわたしは平気だった。好きな人に好きだという気持ちを真っ直ぐに伝えることに、何の問題があるだろう。

 夜、拓人から電話があった。自室のベッドの上に座り直して出ると、挨拶の直後にこう言われた。

「髪切ってよかったー」

「髪を切ったお陰なんだ」

「気分的に追いつめられてよかったよ」

「切ったのに何もしないのはまずい、みたいな?」

「そうそう。格好悪いもんな。上田さんの美容室に行けなくなる」

「そうだね」

「静香がさ、何で町田さんの思うままに動くんだっておれに怒るんだ。おれが静香と元に戻りたがるのも、歌子の影響だと思ってさ」

「それで、どうした?」

「歌子から聞いたこと、話した。全部。謝った。プライドをかなぐり捨てて謝った」

「そしたら?」

「拓人君のせいじゃないって言われた」

「ほら」

「で、好きだって言った」

「へえ!」

「言ったの、初めてかも」

「片桐さんは?」

「泣いてた。よっぽど嬉しかったらしいから」

「だから片桐さん、前より幸せそうだったんだ」

「そう思う?」

「うん」

「よかった。歌子のお節介のお陰」

「えっへん」

「一歩間違えば本当のお節介だからな。えっへんじゃないぞ」

「うん、わかってる」

「じゃ、ありがとう」

「うん。じゃあね」

 電話が切れた。携帯電話を持ったまま、わたしはずっと微笑んでいた。大好きな人に「好きだ」と言われるのは、とても素晴らしいことだ。わたしももっと総一郎に言いたい、と思った。

 進路のことは、まだ考えないでおこう。

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