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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校一年生 二学期
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篠原と拓人

 篠原と一緒にお弁当を食べていた。ちゃんと昼休み。ちゃんと教室。間違っても授業中やトイレなどではない。なのに拓人が突然やってきて、不機嫌な顔でわたしに言うのだ。

「歌子、何で篠原と弁当食べるの」

 教室中が静まりかえっている。それもそうだ。結構な大声だったのだ。いつもうるさい生徒も、一人で食べる生徒も、皆一様にわたしたちを見ている。

 窓際の席で静かに昼食を取っていただけなのだ。目の前の篠原は無表情で、考えていることはわからない。ただ愉快ではないのは確実だろう。

「拓人」

「歌子、篠原のこと好きなの?」

 ぽかんとする。篠原の眉がぴくりと動き、わたしをじっと見つめる。好きなのか? いいや、好きじゃない。

 篠原は身長が高いだけの地味な男子だ。目が鋭くて鼻筋が長くて、昔の中国の秀才が今いたらこんな感じだろうな、みたいな顔。ただ、成績はやたらよくて、いつも学年一位。化学がさっぱりわからないわたしが質問してみたらすらすらと答えてくれたので、こいつは一味違うぞ、と気に入って、最近のお弁当のパートナーにしているのだ。喜ばれているかはわからないが、嫌われてはいないと思う。

 その程度の間柄なのにわたしが篠原のことを好きだと思うなんて、拓人は少女漫画の読みすぎだと思う。

 拓人は幼なじみだ。小学校から家が近所。小学一年生のときから仲がよく、しょっちゅうわたしに甘えてきた。同居している祖母に可愛がられて育った拓人はひどい甘えん坊だ。

 篠原とは正反対の、明るく人気者で成績はまあまあ程度の美少年だ。長めの髪が軽く巻いていて、目はぱっちりしていて、女の子に見えるときがある。女子に人気があって、女友達も多い。わたしの家にちょくちょくやってきては、少女漫画を熱心に読む。そして的外れな批評をする。ということは的外れな読み方をしているのだが、楽しいようなのでそのままにしている。

 少女漫画を読ませすぎたようだ。わたしの監督不行き届きだ。

「篠原のこと、友達として好きだけど」

 拓人の目の色が和らいだ。わたしはうなずき、

「拓人と同じ程度にはね」

 と言った。つまり、二人ともどうでもいいってこと。それなりに気に入ってはいるけれど。だから少女漫画的な感情なんてどこにも入り込む隙間はないのだ。

「同じ程度?」

 篠原が初めて声を出した。拓人よりずっと低い声。表情は、やっぱり変わらない。

「うん」

 拓人が慌てた様子で引きつった笑みを浮かべる。

「同じってことはないだろ?」

 わたしはお弁当をつつきながら答える。

「同じだよ」

 拓人は黙った。わたしは顔を上げる。見ると拓人と篠原が互いににらみ合っていた。お弁当に戻る。玉子焼を頬張り、再び顔を上げる。拓人はわたしたちに背中を向け、篠原がわたしを見つめていた。

「どうしたの? 篠原」

 篠原は無表情のまま、

「何でもない」

 と答えた。わたしはいつの間にかざわめきを取り戻した教室の中で、窓の外を眺めた。校庭を囲むように並ぶポプラが紅葉していてきれいだった。

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