或るきなこ餅屋の回想…中川友也/迎太陽著
この作者は、人類史における善か悪か?
あなたのその目でしっかりと見極めて欲しい
彼は、過去に探偵業を営み、世の中の暗部を嫌というほど見続けてきて尚、人間を見る事を止めない飽くなき人間探究心の持ち主である。
何が彼をそこまで人間に惹き付けるのであろう?
彼の孤独は、人類の孤独でもある潜在的な歪みで、それを抑えきれないのだ。
彼は現代の闇であり孤独であり歪みだ。
彼を見ずして現代を語るのは、もはや不可能だ。
世間を席捲する長崎市出身の福山雅治は、ベビーフェイスなのに重低音声ギャップを搭載したシンガーソングライターの顔を持つ多才で41才で独身で新オッサンでイケメンと云う話題性ゆえに、並居る本職俳優を脇にNHK大河ドラマ龍馬伝に主演した。
己に軸となる思想がない不確かさゆえに、ブランド好きで外見重視で無思考で見栄っ張りな日本国民から絶大な人気を誇る同氏が、高額CM契約金を貰った見返りに、盛んに庶民に売込んでいる商材が大資本企業製・高性能地上波デジタル対応TV・3D東芝レグザだ。
「レグザ ちゅうより ヤクザ だろ」
と、ツッコみたくなる高値札が飾ってある、年商2兆円超の右肩上がりで、世界第2位の売上高を誇る家電店で
「次の目標は年商3兆円だ」
と、ネズミ講まがいの拡大持続宣言を、戦後政府の貯蓄政策の洗脳を強く受け、金が溜まると自動的に目を細めてほくそ笑む生真面目で欲深い株主の爺婆達に喧伝している全国に1,100店舗近くもあるヤマダ電機店内。
買う気も、買う金もなく、ポツネンと眺める高精細液晶大画面には、マスコミから日本を代表するカリスマ経営コンサルタントと評される人物が、世界初・専用眼鏡ナシで見れる3D映像で
「自分が好きなことを仕事にしよう!
そしたら必ず夢は叶う!」
と、自信満々に鼻息荒くも爽やかに言い切り、自身の所有するフォルクスワーゲン社製の青いポルシェに乗って颯爽と疾駆する姿をUPテンポなBGMを背景に立体VIVIDな飛出し映像で流し、庶民の劣情的購買欲をより一層駆り立てていた。
その圧倒的迫力3D映像・重低音ハイパークリアサラウンドを見聞しながら、背後では凄い狙いを秘めた歌が、けたたましく虎視眈々とシングルリピートで流れていた。
「やまーだ、まーだまだ、やーすいんだー
やまだの安さは、はーんぱじゃなーいよ
デーンデンデーンキは、やーまだーだなっ」
と、情動的なフリして、よくよく聞いたら、なんつー無感情な声のガキだよ
って声で歌いながら、店内の高揚感を巧妙に煽り、理性を維持するのがアホらしくなるバカっぽいアホバカ歌。
実は、多額の金をかけて計算し尽くされた超最先端&超高度な洗脳BGMと意識せずに体感してしまった。
すると、やはり若干だが理性が緩み、心持ち油断してしまったのに加え、ちょうど暇だった因果の合わせ技で、「何が好きか?」を己の心奥深くに問うてしもた。
数々のスキモノ候補中、梅干しときな粉餅の2つの巨頭で激しく心が葛藤したが、得意のトランセンド和解法を駆使して、主食にも成り得るとの理由で
『きなこ餅が一番好き』
と、確信してしまう馬鹿げた暴挙を、参拾秒セコンド程で成し遂げてしまった
“確信”とは、時に呆れ返る程のバカヂカラを持った代物で、確信してしまったが最後、なまじ行動力があり過ぎるゆえに、きなこ餅好きに悪人はおらん!、 ベンツやBMWに乗るような金持にならんでええから、一家全員が食べていけるだけの慎ましい収入があればそれでええねん。
平凡ながらご近所から慕われるほのぼのしたホーポノポノな和解手法で家庭内の争いを解決できる気さくな『きなこ餅屋』になって、念願の平凡で幸せな温かくて味噌汁が似合う笑いが絶えない朗らかランランな家庭を築く夢を叶えたろぉ~
と、幸か不幸か決断せざるを得ない流れに飲み込まれる運びとなった。
・・・それから毎晩10時に寝て、毎朝4時に早起きして、きなこ餅を作っては、店頭だけでなくリヤカーを引きながら売り歩き暮らした。
当初、きな粉餅は1個60円に設定して売った。
毎日12千円を売り上げないと材料費や広告費や市県民税や国民健康保険費や携帯電話代や家賃や光熱費や食費や駐車場代や上下水道代や酒代や車代や交際費が払えなかった。
ゆえに、毎日200個の黄な粉餅を売り切らないとならなかった。
黄粉餅は、200個完売することもあったが、完売しない日もあった。
生活は日に日に苦しくなり、完売しない日は、夕食と翌朝食にきなこ餅とワカメ豆腐の味噌汁を食した。
生まれ変わったら、きなこ餅になりたい位に大好きだったから、毎日残ったキナコ餅を食せて幸せだろう予想していた。
しかし、本来なら売って生活費にする為に作ったキナコ餅を己自身が毎日食べ続けている生活に段々とバカらしさと腹立たしさと惨めさと寂しさなどの歪みが生じ、しまいには何故か悲しくなってきて涙まで流すようになった。
涙は、きなこ餅の上にポトポト落ちて焦げ茶色の染みとなり、益々きなこ餅が不味く感じ、鬱病&アル中気味になっちまった。
いつしか、あんなに大好きだったキナコ餅に、ちっとも愛情が湧かない外道に成り下がっていた。
でも、本当は、きなこ餅が好きで好きで仕方がなかったはずなのに…
「何故こうなったんだ? あのTVに出てた偉そうな奴が、大嘘ついて騙したんじゃないか? きっとそうだ! あの野郎ぉ~! ぶっ殺しちゃるぅ~!!」
インターネットで奴のフルネームを指名検索し、講演会のスケジュールを見つけ、講演会を終えるまで付近で張込み、あの日、3D東芝レグザで見た青いポルシェが停めてある駐車場で、奴を背後から羽交い絞めにした。
「あんた、嘘つきだねっ」
カリ梅をカリカリ齧りながら、首の正面中央の喉仏に切っ先鋭いバタフライを2ミリ程喰い込ませたところ、奴は、
「貴殿、一寸待たれよ。
貴殿のキナコ餅の売り方が少々よろしくなかっただけでなかろうか
我が輩が誰にも教えてない特別なやり方を伝授するから試してみないか」
と、喉仏に血を滲ませながら、必死であると同時に、職業柄のハッタリを利かせた自信満々な表情で断言された。
すると、藁にも縋る思いと楽観主義が同時に頭をもたげ、もしかして上手くいくかも
と感じた刹那、不思議と怒りが治まり、罪悪感に苛まれバタフライを棄て、その人物に土下座して額をアスファルトに血が出るまで前後に擦り付けて謝った。
更に成功した場合には、毎月売上粗利の15%を領収書ナシで支払う約束を私的書面で交わした上で教えを請うに相成った。
その瞬間からカリスマ師匠の言う通り、見よう見真似で、生まれて初めて広告という概念を頭に叩き込み始めた。
各種ネット・フリーペーパー・マスメディア・クチコミの正体と大衆の無知さと洗脳され易さに怒涛の如く驚愕し、本音と建前をわきまえ、大義名分と云う資本主義史上最大の発明概念を存分に駆使し、世の中の見え方が180度近く変わる程、社会の力学・洗脳術・人々の本音と本来の単純で利己主義な姿をあぶり出した。
その後、大衆目線できなこ餅をいかに演出すれば良いかの結論を導き出した。
尚且つ、毎日広告文を検証し直し続け、きなこ餅の歴史や素晴らしさや素材のこだわり、きな粉だけじゃなく健康に良いとされる希少価値のあるこだわりの黒豆粉も混ぜてきな粉を作ったと丁寧に分りやすく、小3のガキでも理解できる説明文、想像で考えた購入者の感動の声も記載して売ってみた。
そしたら、みるみる別世界のように180度ほど売れ行きが激変した
イマまで血を吐くほど頑張って路上で声を張り上げ、カスカスのしゃがれ声になるまで全精力を使って叫び続けても200個さえ売れなかったのが、一度も声を張り上げなくても店舗前に勝手に行列が出来て、ネット注文の発送手続が忙しく、通帳の記入欄が一杯になるスピードが劇的に速まり、しょっちゅう通帳を新しく更新するようになった。
平均して毎日2千個以上、単価も物語の付加価値がつき1個150円で売れたので、毎日30万円以上の売上ができた。
それまで、売れ残ったキナコ餅を朝昼晩と食べていたのに、毎日、高級寿司店や高級焼肉店や高級懐石店や高級シャブシャブ店や値段の付け方がオーナーの気分次第の小洒落たカフェや高級ホテル内の高級中華料理店なんかを梯子しながら食す事が多くなった。
1年半後…TVに取り上げられ『カリスマ・きな粉モチ職人』とか『カリスマ・フードプロデューサー』として、世の人々に崇め奉られていた。
そして、TVの前にいる大衆に向けて、こう言った。
『好きなことを仕事にするな。
好きなことをするのは趣味であり、嫌いなことこそが仕事である。
よく考えて、まず師を見つけ命懸けで学べ。
そしたら、少なくとも今より幸せになれる!』
過去の失敗を胸に、庶民の人生を変えてやろうと精一杯の熱弁を振るったが、真剣に聞いてる者は、その中の0.1%もおらず、人々はよそ見したり、お喋りしたり、アクビしたり、ゲップしたり、ラーメン食べたり、酒を飲んだり、居眠りしながら、学級崩壊した小1クラスのような有り様で、超騒がしく超いい加減に超適当に口を半開きにして眺めてるだけだった
そこに、一方的でおせっかいな愛はあったが、現実の哀しさは、そんなチャチな愛に見向きもせず、悠然と嘲笑っていた…
トランセンド和解コンサルタント
文責:中川友也
あぁ、貴方が中川さんですか
中川友也
TEL> 070-5630-2063
メール> c-lover643@willcom.com
【作者から読者様へ】
ここに格差社会における庶民の貧困が確定している原因が見えた気がするアナタは、ボクと思考が近い人物かもしれないし、全然そうでないかもしれない…(笑)
ただ、ボクはこの寓話の中で、世の中の真実の一端を押しつけることなく、なるべくさり気なく、ギンギラギンじゃなくさり気なく提示したかったのだ。
そして、様々なことを考えるインスピレーション喚起素材の一端に成り得ることができれば、ボク自身にとって最高の幸せだと感じる、若干変人気味な人間だと薄々気付いている次第である。(笑)
・・・尚、この小説には続きがあります。
続きを読みたいと熱望される方は、メールにてご連絡下さい。