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神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜  作者: 黒崎隼人


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第6話「動き出す世界と最初の試練」

 セレスティアが仲間になってから、アルカディアの発展はさらに加速した。

 彼女の治癒魔法によって怪我や病気で命を落とす者がいなくなり、住民たちの生活の質は格段に向上した。コハクの結界、シオンの警備、セレスティアの医療。そして、イザベラの行政手腕と、俺が供給する無限とも思える食料。アルカディアは、もはや辺境の奇跡として、その名を周辺地域に轟かせ始めていた。

 人口は五百人を超え、集落は小さな町と呼べる規模になった。鍛冶屋や織物工房、パン屋など、様々な職業の者たちが集まり、自給自足の共同体は、やがて経済活動の拠点へと変貌を遂げようとしていた。


「蓮様、そろそろ本格的に、外部との交易を始めるべきです」


 ある日の会議で、イザベラが真剣な表情で提案した。


「我々の生産する作物の品質は、世界中のどこを探しても見つからないレベルのものです。特に、塩や砂糖、そして蓮様が生み出された醤油や味噌といった調味料は、必ずや莫大な利益を生むでしょう。その利益で、この地では手に入らない鉱物資源や魔法の道具を輸入するのですわ」


 彼女の言うことはもっともだった。いつまでも閉じたコミュニティのままでは、いずれ発展は頭打ちになる。俺たちの理想郷を守り、さらに発展させていくためには、経済的な力も不可欠だ。


「わかった。イザベラ、君に全て任せる。必要なものがあれば何でも言ってくれ」


「お任せくださいませ。必ずや、アルカディアに富をもたらしてみせますわ」


 ***


 イザベラの目は、かつての貴族令嬢としての輝きを取り戻していた。彼女は水を得た魚のように生き生きと働き始め、まずは近隣の町との間に小さな交易路を開拓した。

 アルカディアの特産品、特にトマトを加工して作ったケチャップや、長期保存が可能なジャム、ピクルスといった加工食品は、瞬く間に市場の人気をさらった。今まで味わったことのない美味さに人々は熱狂し、アルカディアの名は商人たちの間で瞬く間に広がっていった。

 しかし、光が強くなれば、影もまた濃くなる。

 俺たちの成功は、この地域の商業を牛耳ってきた大商人ギルド『ゴルディオン商会』の耳にも入ることとなった。彼らは、自分たちの縄張りに突如として現れた新興勢力を快く思わなかった。

 最初の脅威は、静かに、そして卑劣な形でやってきた。

 ある日、俺たちが町へ送った交易品の荷馬車が、何者かに襲撃されたのだ。幸い、護衛についていたシオンの活躍で死傷者は出なかったが、商品は全て燃やされ、大きな損害を被った。


「間違いなく、ゴルディオン商会の差し金だろう。奴らは、自分たちに従わない者をこうやって潰してきた悪名高いギルドだ」


 シオンが悔しそうに報告する。


 ***


 続いて、商会はアルカディアへ通じる道を自分たちの私兵で封鎖し、物流を完全にストップさせた。表向きは「盗賊から旅人を守るため」という名目だったが、その本当の狙いは明らかだった。俺たちを兵糧攻めにし、経済的に締め上げてから、その全ての利権を二束三文で買い叩くつもりなのだ。


「卑劣ですわ……。ですが、想定の範囲内でもあります」


 イザベラは、意外にも冷静だった。彼女は一枚の地図を広げ、ペンで特定の場所を示した。


「彼らは、陸路を抑えれば我々が屈すると考えているのでしょう。ですが、我々には別の道があります。この『嘆きの川』です」


 嘆きの川。かつては豊かな水をたたえていたが、荒野の呪いの影響で流れが枯渇し、今はただの巨大な窪地として残っている場所だ。


「この川底を使えば、彼らの封鎖網を迂回して、さらに大きな港町まで直接商品を運ぶことができます。問題は、川底に強力な魔物が巣食っていると噂されていることですが……」


「その問題は、俺が解決する」


 俺は立ち上がり、ガイアの聖クワを手に取った。


「川が枯れたのも、元はと言えばこの土地の呪いのせいだ。なら、俺のクワで浄化すれば、再び水が流れるようになるかもしれない」


「なんと……! もしそれが本当なら、我々は独自の交易ルートを手に入れることができます! 他の誰にも邪魔されない、アルカディアだけの道を!」


 イザベラの目が輝く。それは、大きな賭けだった。だが、このまま黙って締め上げられるのを待っているわけにはいかない。


「シオン、護衛を頼む。ルナミリアとセレスティアは、怪我人が出た時のために待機していてくれ。コハクは、遠くからでいい、俺たちに加護を」


 俺の言葉に、仲間たちが力強く頷く。

 アルカディアにとって、最初の大きな試練。それは、俺たちの理想郷が、ただ守られるだけの弱い存在ではないことを世界に示すための、戦いの始まりでもあった。俺はクワを握る手に力を込め、乾ききった川の大地へと向かった。

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