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神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜  作者: 黒崎隼人


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第4話「天狐の巫女と約束の味」

 新たな仲間が加わってから三ヶ月。俺たちの農園は、もはや単なる農園ではなく、小さな集落と呼ぶにふさわしい姿に変わりつつあった。

 シオンが率いる警備隊が周囲の安全を確保し、イザベラが中心となって物資の管理や住民の戸籍登録を行う。ルナミリアは薬草園を作り、ポーションの試作を始めていた。俺はと言えば、相変わらず畑を拡張し、新たな作物の栽培に挑戦する毎日だ。水路を整備し、風車を建てて小麦を製粉できるようにしたことで、食生活のレベルは飛躍的に向上した。

 今では噂を聞きつけた者たちが、毎日のようにこの地を訪れるようになった。そのほとんどは、様々な事情で行き場を失った人々だ。俺たちは彼らを選別することなく受け入れた。ただ一つのルール――「ここで暮らす者は、皆で働き、皆で食卓を囲む家族である」ということだけを伝えて。

 人口は五十人を超え、集落は活気に満ち溢れていた。そんなある日の午後、集落の入り口で見張り番をしていたシオンが、珍しく慌てた様子で俺の元へ駆け込んできた。


「蓮、大変だ! とんでもないのが現れたぞ!」


 彼女に案内されて入り口へ向かうと、そこには息を呑むほど美しい女性が一人、静かに佇んでいた。

 濡れたような光沢を放つ長い黒髪、神秘的な金の瞳。何より目を引くのは、その背後でゆらゆらと揺れる、九本ものふさふさとした狐の尻尾だった。東方の国に住むという、幻の亜人・天狐てんこ族。その姿は、まるで神話から抜け出してきたかのようだった。

 彼女は俺の姿を認めると、深々と頭を下げた。


「私はコハクと申します。遥か東の国から、安住の地を求めて旅をしてきました。この地に満ちる清浄な大地の気に引かれ、やって来た次第です」


 その言葉遣いは古風だが、透き通るような声は心地よく耳に響く。聞けば、彼女の故郷は魔物の大群によって滅ぼされ、一族の生き残りである彼女は、新たな聖地を探して大陸を放浪していたのだという。


「この土地は……不思議な力に満ちています。これほど清らかなマナの流れは、私の故郷以上かもしれません。どうか、この地に私の一族の社を再建する許可をいただけないでしょうか?」


 真摯な瞳で訴える彼女を、断る理由などなかった。


「もちろん、歓迎するよ、コハク。ここにはいろんな種族がいる。君たちも、これからは家族だ」


 俺がそう言うと、彼女の張り詰めていた表情がふっと和らぎ、安堵の微笑みが浮かんだ。

 その日の夕食は、コハクの歓迎会を開いた。彼女のために、俺はとっておきの料理を振る舞うことにした。それは、彼女の故郷の味を思い出させるかもしれない、俺の前世の記憶から生まれた料理だった。

 俺は『豊穣の納屋』から、実験的に栽培していた米を取り出した。この世界にも米に似た穀物は存在するが、俺が育てたそれは、ふっくらと炊きあがるジャポニカ米だ。さらに、大豆から時間をかけて醸造した醤油と味噌も用意した。

 炊きたての真っ白なご飯、豆腐とワカメの味噌汁、そして採れたての野菜と森猪の肉を醤油ベースのタレで炒めた、野菜炒め。質素だが、日本人だった俺の魂が求める食卓だ。


「これは……?」


 初めて見る料理の数々に、コハクは不思議そうな顔をしている。


「俺の故郷の料理なんだ。口に合うといいんだけど」


 おずおずと箸――木の枝を削って作った即席のものだ――を取るコハク。彼女はまず、味噌汁の椀を手に取り、そっと香りを嗅いだ。そして一口飲むと、その金の瞳を驚きに見開いた。


「……懐かしい、味がします。故郷で飲んだ、母の作る豆の汁に、とてもよく似ています……」


 ぽろり、と彼女の瞳から一粒の涙がこぼれ落ち、お椀の中に吸い込まれていった。故郷を失い、ずっと一人で戦ってきた彼女の心が、少しだけ解れた瞬間だったのかもしれない。

 それから彼女は、夢中で食事を始めた。真っ白なご飯を頬張り、野菜炒めに舌鼓を打つ。他の仲間たちも、初めて味わう「醤油」と「味噌」という調味料の奥深い味わいに、驚きと興奮を隠せないでいた。

 食事を終えた後、コハクは俺の前に座り、改めて深く頭を下げた。


「蓮様……いえ、蓮殿。このご恩、生涯忘れません。私コハクは、我が命と術の全てをもって、この地とここに住まう人々をお守りすることを誓います」


 ***


 その日から、コハクは集落の巫女姫となった。彼女が張ってくれた強力な結界は、魔物や邪な心を持つ者の侵入を防ぎ、集落の安全性を飛躍的に高めてくれた。また、彼女が執り行う季節ごとの祭りは、多様な種族が集まる住民たちの心を一つに繋ぐ、大切な行事となっていった。

 美味しい食事は、時にどんな言葉よりも雄弁に、人の心を繋いでくれる。俺は湯気の立つお茶をすすりながら、そんなことを考えていた。

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