エピローグ「黄金の種を蒔く人」
アルカディア連邦建国から、五年。
かつて『嘆きの荒野』と呼ばれた不毛の大地は、今やその面影を完全に消し去っていた。
見渡す限り広がるのは、収穫の時を迎え、黄金色に輝く麦畑。規則正しく植えられた果樹園には、色とりどりの果実がたわわに実っている。それらを縫うように走る水路は、太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。
そして、その豊かな大地の中心に、白壁の美しい都市がそびえ立っている。人口は十万人を超え、大陸で最も豊かで、最も平和な国と謳われるようになった、我らがアルカディアだ。
今日は、一年に一度の最も大きな祭りである『大収穫祭』の日。国中が、喜びと感謝の熱気に包まれていた。
俺は、城のバルコニーからその光景を眺めていた。隣には、そっと俺の腕に寄り添う美しい女性の姿がある。銀色の髪を風になびかせ、穏やかな微笑みを浮かべる彼女は、俺の妻となったルナミリアだ。
「すごいね、蓮。五年前は、あなたと私、二人だけだったのに」
彼女が、感慨深そうにつぶやく。
「ああ。本当に、夢みたいだよな」
広場では、様々な種族の子供たちが、手を取り合って楽しそうに駆け回っている。エルフの子供と魔族の子供が、一緒になって獣人の子供を追いかけている。そんな光景が、この国では当たり前だった。
「農園長! ルナミリア様! こっちこっち!」
広場から、シオンが大きく手を振っている。その隣では、イザベラが少し呆れたように微笑み、コハクとセレスティアが楽しそうに綿あめを頬張っていた。彼女たちは今も、俺にとってかけがえのない、最高の仲間たちだ。
俺とルナミリアもバルコニーを降り、皆の輪に加わった。住民たちは、俺たちの姿を見ると、親しみを込めて「農園長!」「奥様!」と声をかけてくる。この国に、王と民を隔てるような堅苦しい壁はない。俺たちは皆、同じ食卓を囲む、大きな家族なのだから。
祭りが最高潮に達したその時、ふわり、と一枚の葉が、空から俺の手に舞い降りてきた。それは、ただの葉ではなかった。淡い光を放ち、そこには見慣れた美しい文字が綴られている。
『親愛なる、黄金の種を蒔く人へ』
女神アリアからの、手紙だった。
『あなたが見事に使命を果たしてくれたこと、心から感謝しています。あなたと仲間たちが作り上げたこの国は、ただ豊かなだけではない。それは、いがみ合っていた多くの種族が、共に未来を歩めることを証明した、世界にとっての『希望』そのものです。これからも、その聖なるクワで、世界中に幸せの種を蒔き続けてください。あなたの作る料理、今度こそ食べに行きますね』
手紙は、光の粒となって消えていった。
俺は、空を見上げて微笑んだ。そして、愛用の『ガイアの聖クワ』を肩に担ぎ直す。
「さあ、みんな! 明日も、美味いもん作るぞ!」
俺の言葉に、仲間たちと、アルカディアの住民たちが、最高の笑顔で応えてくれた。
***
ブラック企業で過労死した俺の第二の人生。それは、武力や権力ではなく、一本のクワと、美味しい食事と、温かい仲間たちの力で築き上げた、本当の意味での『極楽』だった。
俺の異世界農業ファンタジーは、まだ始まったばかりだ。
この黄金の大地と共に、これからもずっと、続いていく。




