番外編「アルカディアの休日」
アルカディア連邦の建国から、しばらく経ったある晴れた日のこと。
連日の激務から解放された俺は、久しぶりに訪れた完全な休日に、何をしようかと考えあぐねていた。そんな俺の元に、ルナミリアが少し恥ずかしそうにやってきた。
「あの、蓮……。もし、今日予定がないのなら、みんなでピクニックに行かないかなって……」
彼女の手には、可愛らしい編みかごが握られている。その提案に、俺は二つ返事で頷いた。
話はあっという間に広まり、結局、俺とルナミリア、シオン、イザベラ、コハク、セレスティアの初期メンバー全員で行くことになった。それぞれが手分けして準備をし、俺は特製のサンドイッチと、果物をふんだんに使ったフルーツポンチを担当することになった。
俺たちが向かったのは、町の少し外れにある小高い丘の上。そこからは、黄金色に輝くアルカディアの麦畑と、活気あふれる街並みを一望できる、とっておきの場所だった。
「わあ、すごい! まるで金色の絨毯みたい!」
セレスティアが、翼を広げて嬉しそうに声を上げる。
「ふむ。我らが育てた国ながら、なかなかの絶景だな」
シオンも、腕を組んで満足げに頷いている。
俺たちは、丘の上の大きな木の下にシートを広げ、持ち寄った料理を並べた。ルナミリアはハーブを効かせた鶏肉のロースト、シオンは自ら狩ってきた猪の燻製、イザベラは王宮仕込みのオードブル、コハクは彩り豊かな煮物、セレスティアは甘い焼き菓子。そして俺のサンドイッチ。テーブルの上は、壮観なごちそうであふれていた。
「それじゃあ、アルカディアの未来に、乾杯!」
俺の音頭で、皆がグラスを掲げる。中身は、もちろん俺が作ったリンゴの発泡酒、シードルだ。
「んー、おいしい! このサンドイッチ、パンがふわふわなのはもちろんだけど、この白いソースが絶妙ね!」
イザベラが、俺の作ったたまごサンドを頬張りながら感嘆の声を漏らす。もちろん、ソースは特製のマヨネーズだ。
「コハクの煮物もすごいな。醤油の味が、しっかり染みてる」
「蓮殿の醤油あってこその味です。もっと精進しなければ」
和やかな雰囲気の中、食事が進んでいく。普段は、それぞれの立場で忙しくしている彼女たちも、今日ばかりはただの女の子に戻って、楽しそうにおしゃべりをしていた。
しばらくして、ふと、ルナミリアが俺の隣にそっと座ってきた。
「ねえ、蓮。覚えてる? 私たちが、初めて会った日のこと」
「もちろん覚えてるよ。腹ペコで、今にも倒れそうだったじゃないか」
俺がからかうと、彼女は顔を赤くして頬を膨らませた。
「も、もう! でも……あの時、蓮が作ってくれたポトフの味、今でも忘れられない。温かくて、優しくて……私の全部を、救ってくれた味だった」
彼女は、真っ直ぐな瞳で俺を見つめて言った。
「ありがとう、蓮。私を、見つけてくれて」
その言葉に、俺は少し照れながらも、彼女の頭を優しく撫でた。
すると、それを見ていた他のメンバーたちが、わらわらと集まってきた。
「ずるいぞ、ルナミリア! 蓮は、私が最初にその強さを見抜いたんだからな!」
「いいえ、わたくしがこの国の将来性を見出して、蓮様を導いたのですわ!」
「蓮殿の魂の清らかさに、最初に気づいたのはこの私です」
「わ、私を絶望から救い出してくださったのは、蓮さんです……!」
いつの間にか、俺はヒロインたちに囲まれていた。皆が、俺の腕を取り合ったり、服の裾を掴んだりしている。いわゆる、ハーレム状態というやつなのだろうか。
俺は困ったように笑いながら、空を見上げた。どこまでも青く澄み渡った空。仲間たちの弾けるような笑顔。頬を撫でる、心地よい風。
ああ、幸せだな。
心の底から、そう思った。
***
俺が手に入れたかったのは、こういう何気なくて、温かい日常だったのかもしれない。
この幸せな時間を守るためなら、なんだってできる。俺は、隣で微笑む彼女たちの顔を見ながら、改めてそう誓った。
アルカディアの休日は、たくさんの笑顔と、美味しい料理に包まれて、穏やかに過ぎていくのだった。




