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神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜  作者: 黒崎隼人


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第10話「北方の影と最大の危機」

 アステル王国から正式な自治領として認められてから、一年が過ぎた。

 アルカディアは、もはや誰も辺境の開拓地とは呼ばない、堂々たる都市へと成長していた。人口は三千人を超え、碁盤の目のように整備された街並みには様々な種族が行き交い、活気に満ちている。

 俺たちの特産品は大陸中に広まり、アルカディアは世界有数の食料生産地、そして異文化交流の中心地として、その名を不動のものとしていた。俺は相変わらず「農園長」を名乗っていたが、実質的にはこの都市の領主として、多忙な毎日を送っていた。

 スローライフとは一体何だったのか。時々そう思うこともあったが、仲間たちの笑顔と豊かになっていく町を見るたびに、この道を選んで良かったと心から思えた。ルナミリア、シオン、イザベラ、コハク、セレスティア。彼女たちは、今やアルカディアの運営に欠かせない、それぞれの部門の責任者として俺を支えてくれている。彼女たちがいなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。

 そんな平穏な日々が、永遠に続くかのように思われた。

 だが、最大の危機は、俺たちの想像を遥かに超える形で、北の地平線から静かに迫っていた。

 始まりは、北方からの難民だった。雪のように白い肌と、血のように赤い瞳を持つ彼らは、魔王領から命からがら逃げてきたのだと語った。


「魔王様が……代替わりなされたのです。新たな魔王は、苛烈な方だ。我々のような穏健派を粛清し、再び人間との全面戦争を始めようとされている」


 彼らの言葉を裏付けるように、アルカディアの北方に、不穏な魔力の高まりが観測されるようになった。コハクの張った結界が、夜な夜な不気味な光を放ってきしむ。

 そして、ある冬の日の朝。アルカディアの北門に、一人の使者が現れた。漆黒の鎧に身を包んだ、屈強な魔族の戦士。彼は魔王軍先遣隊の将軍を名乗り、俺たちに一枚の羊皮紙を突きつけた。それは、事実上の降伏勧告だった。


『我が偉大なる魔王様の進軍にあたり、お前たちの都市を中継基地として接収する。一週間のうちに全ての食料と武器を差し出し、無抵抗で門を開けろ。そうすれば、住民の命だけは保証する』


 あまりに一方的で、屈辱的な要求。町は、一瞬にしてパニックに陥った。


「ふざけるな! 戦うべきだ!」


「でも、相手はあの魔王軍よ……勝てるわけがないわ」


「逃げるしかない……でも、どこへ?」


 住民たちの不安と恐怖が渦巻く中、俺は幹部たちを集めて緊急会議を開いた。


「王国に救援を要請すべきですわ。自治領の危機は、すなわち王国の危機でもあります」


 イザベラの提案に、シオンが反論する。


「駄目だ、間に合わない。それに、あの欲深い連中が、俺たち異種族のために本気で戦うとは思えない」


「ですが、我々だけの戦力では……。偵察によれば、敵の先遣隊だけでも、その数はおよそ一万。対する我々の兵力は、警備隊を含めても五百に満たないのです」


 セレスティアの言葉に、誰もが沈黙した。圧倒的な戦力差。まともに戦えば、アルカディアは一日もたずに蹂躙されるだろう。

 重苦しい空気が、会議室を支配する。誰もが、絶望的な状況に言葉を失っていた。その時、俺は静かに口を開いた。


「戦う必要はない。俺は、彼らと交渉する」


「交渉!?」


 俺の突拍子もない言葉に、全員が驚愕の表情を浮かべた。


「蓮、正気か!? 相手は魔族だぞ! 話が通じるわけがない!」


 シオンが叫ぶ。だが、俺の考えは違った。


「いや、通じるはずだ。考えてもみてくれ。一万もの大軍が、この極寒の地を越えて遠征してきているんだ。一番の問題は何だと思う?」


 俺の問いに、イザベラがハッとしたように顔を上げた。


「……食料、ですわ! それだけの軍勢を維持するための補給線は、長大で脆弱なはず。彼らは、深刻な食糧不足に陥っている可能性が高い……!」


「その通りだ。北方からの難民たちも言っていた。新しい魔王は、性急に事を進めすぎている、と。おそらく、十分な準備もないまま、無理な進軍を強行したんだ」


 俺は、一枚の切り札をテーブルの上に置いた。それは、俺が試作を重ねてきた、究極の携帯保存食だった。小麦と木の実、ドライフルーツなどを練り固めて焼き上げた、高カロリーな栄養バー。これ一つで、成人男性の一日の活動エネルギーを補給できる。


「俺たちは、彼らに食料を提供する。その代わり、アルカディアへの不可侵と、安全な通商を約束させるんだ」


 あまりに大胆で、奇抜な作戦。だが、今の俺たちに残された、唯一の希望だった。


「危険すぎる……。もし、食料だけ奪われて、約束を破られたら……」


 心配するルナミリアに、俺は微笑みかけた。


「その時は、俺が責任を取る。大丈夫だ。どんな屈強な戦士だって、腹が減っては戦はできない。そして、美味い飯の前では、誰もが無力になる。俺は、このアルカディアが誇る『食』の力に賭ける」


 俺の覚悟に、仲間たちはゴクリと息を呑んだ。そして、一人、また一人と、力強く頷いた。


 ***


 一週間後。俺は、ルナミリアとイザベラだけを連れ、たった三人で、魔王軍の陣地へと向かった。腰に剣はなく、手にしているのは、山と積まれた食料を乗せた荷馬車と、交渉という名の、最強の武器だけだった。

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