選定
「私もですか?」
選定はすでに終わっているとヴァイオレットは思っていた。
まさか、自分も一緒に選定するとは思ってもみなかった。
「ええ。当然です。私は人間の時間を守っているだけで、彼らの魂を見たことはありません。私は時間から、あなたは魂から選び、そこから相応しいものを選ぶのです」
時の神の言葉を聞いて、なぜまだ選定が終わっていなかったのか納得した。
神の力を与えるものを選ぶには自分たち二神がそろってはじめてできることなのだと。
「わかりました」
ヴァイオレットは慎重に選びだそうとすると、「といっても、決定権はあなたにありますけどね。下界の者に恐れず立ち向かえる勇気と諦めない心を持っている人間が、時間だけしか見てこなかった私には誰がそうなのか判断がつきませんし、それに力を与えるあなたがいいと思うものでなければ、その力を人間が使うのは難しいでしょうから」
「それならなぜ?あなたも一緒に選ぶのですか?」
そう尋ねようとして開いた口をヴァイオレットは閉じた。
少し考えればわかることだった。
神々の反応を見れば自分に好意的ではないと気づいた。
もし、ヴァイオレットが選んだものが任務を失敗した場合、彼らは容赦なくそのことを追及してくる。
だが、時の神も一緒に選んだものとなれば、追及をされることはないだろう。
時の神は私を守ろうとしてくれているのか。
少し考えて、「いや、それはないな」とヴァイオレットはすぐにその考えを否定した。
時の神は自分ではなく人間の魂を守る役割を持っている自分を守ろうとしているのだと認識をかえた。
ヴァイオレットが最初に会ったときと時の神の見方を変えていると、「それで誰か相応しい人間はいますか?」と聞かれた。
ヴァイオレットはそう聞かれて、美しく咲き、輝いた、ある一つの魂を思い出した。
「心当たりあるみたいですね」
声にも表情にも出さなかったのに、時の神は全てを見透かしているみたいにそう言った。
「はい。一つだけ、あります。でも、その花は既に枯れています」
枯れたものに力を与えることはできない。
それに、その花を見たのはずいぶん前だ。
他に相応しいものがいるか、今咲いてある花から見つけようと思い出そうとすると、それを遮るように時の神が言った。
「では、その者が転生し、今生きているか探しましょうか」
「そんなことができるのですか」
ヴァイオレットは思わず聞いてしまった。
「ええ。私とあなたが協力すればできますよ」
「……?」
ヴァイオレットは時の神の言葉に首を傾げる。
時の神はそんなヴァイオレット見てほほ笑むと、わかりやすく説明してくれた。
「魂とは、例え肉体が死に別の物に移り変わろうと変わることはありません。それは知っていますね」
「はい。もちろんです」
「あなたがその魂を覚えているのなら、それを通じて私の持つ力で、その魂の時間が動いているのか調べることができます」
時の神がどうやって人間たちの時間を、どこで、どうやって管理しているのか知るものはいない。
私が人間たちの魂をどうやって管理しているか知るものがいないように。
「そうなんですか。わかりました」
「では、やりましょうか。その者の魂を思い浮かべてください」
時の神に促されるようにヴァイオレットは彼の手を掴み、その者が最終的に咲かせた花、美しい黄金の桜に似た花を思い浮かべた。
時の神はヴァイオレットから伝わってくる、清らかで勇敢で愛に満ちた魂を感じ取った。
時の神は人間の時間だけを管理しているので、人間の魂がこんなに美しいものとは、ヴァイオレットに教えてもらうまで知らなかった。
運命の女神がなぜ誕生し、なぜ孤立させられているのか、時の神は改めてその大切さを認識させられた。
自分と同様にこの世界から消えたら困る存在なのだと。
「見つけました」
時の神が自身の力を消してから言った。
「どうでしたか」
「その者は現在、地上にいます。時間的に十六歳でしょう。この者の寿命は長いので、任務を全うすることはできますが、本来はすることのなかったことをするので寿命は縮む可能は大いにありますが、下界の者に魂を食われる心配はなくなります」
時の神は例え寿命が縮まっても、魂を食われ、永遠に消えるよりはいいだろう、と遠回しに言った。
ヴァイオレットも同じ意見だったので、特に何も言わなかった。
「とりあえず、今日その者の魂を呼び寄せます。受けてくれるかはわかりませんけど」
「受けるさ」
時の神は断定した。
まるで、そうなるのが当然のような口ぶりだった。
時の神だけあって、そうなる未来が見えたのかもしれない。
ヴァイオレットは特に気にすることもなく、「じゃあ、帰るわ」と言って席から立った。
「待て。私も行こう」
「別に一人でも平気です」
「ただ、純粋に気になっただけさ。あの時の荒れ地が今はどうなっているのか」
「そうですか。勝手にしてください」
来ないで、と言ったところで無理やりついてくるに決まっている。
ヴァイオレットは諦めにちかい投げやりの感じで、そう言い放った。




