神々の会議 3
「ええ。もちろんです」
時の神はヴァイオレットの力を見ても他の神々みたいに驚くことなく、淡々と答えた。
時の神は初めて運命の女神と会ったときから、彼女の力を知っていた。
ただ、いくら創造神の次に強い力を有している時の神である自分が運命の女神の力は本物だといっても、彼らは信じることはなかっただろう。
自分の目で見るまでは。
だから、あえてその機会を与えたのだ。
彼らの大半はこの事態が起こったのは運命の女神であるヴァイオレットのせいだと、責任を全て押し付けるために呼び出そうとしたのだ。
だが、自分より強い力を彼女が持っているとわかった以上、よほどの愚か者でない限り、争いを起こすような真似はしないだろう。
「他の神の皆さんも、運命の女神がこの任務に就くことに異論はありませんね」
時の神の問いかけに誰も何も言わない。
「では、この任は運命の女神が務めるということで。頼みましたよ」
時の神は穏やかな表情でヴァイオレットに微笑みかけた。
「はい」
そんな時の神とは対照的にヴァイオレットは無表情なまま返事をした。
「では、次に運命の女神の護衛者を決めたいと思います」
その言葉にヴァイオレットだけでなく、他の神々も驚いた。
ヴァイオレット自身は自分が天界から降りることはないのだから大丈夫だと思っていたし、他の神々の大半も、運命の女神は天界で最も安全なところに隔離されているのに、その必要があるのかと言いたげな表情で時の神を見た。
だが、そんな視線を無視して時の神は話を続けた。
「誰か務めたいものはいますか」
ほとんどの神は腕を組み、その必要はないと意思表示するかのような態度をとった。
ヴァイオレットも必要ないと思っていたので、彼らの態度を特に気にすることなく「必要ありません」と言おうとしたら、四本の腕が上がったのが目に入った。
腕をあげた人物の顔をヴァイオレットは確認すると同時に、他の神々がざわつき始めた。
聞こえてくる言葉から、神々の中でも上位の者たちだと推察できた。
そんな人たちが何故自分の護衛に立候補するのかとヴァイオレットには理解できなかった。
上位であればあるほど、彼らに与えられた役割は多いのだから。
「では、四神の方々に運命の女神の護衛をしてもらいましょうか」
いったい、その中から誰を自分の護衛につけるのかとヴァイオレットは時の神の結論を尊重しようとしたが、まさかの全員に護衛させる結論には驚きを隠せなかった。
さすがにそれは過保護すぎる、と意見を述べようとするが、それより先に神々が時の神に物申した。
「時の神よ。さすがに、それは過剰すぎないか」
「そうです。いくらなんでも彼らに護衛させるのはやりすぎです」
「彼らには彼らにしかできない役割があるのです」
次々と四神を護衛者から外すよう求める声が上がった。
そんな中、ヴァイオレットに対する批判の声もあった。
「自分は安全地域にいるくせに、さらに守ってもらおうと?図々しいにもほどがあるわ」
「あのすました顔はなに?自分が守られるのは当然だとでも思っているのかしら?」
女神たちから上がる声はどれも嫉妬からくるもので、冷静な判断ができているとは思えなかった。
女神たちの言っている頃場の意味は理解できたが、何故それが自分に向けられるのかはヴァイオレットには理解できなかった。
「静かにしなさい」
そう時の神が言うと、騒がしかったのが嘘みたいに静まり返った。
声を荒げたわけではないのに威圧があった。
「私の判断に文句があるのですか」
有無を言わさない言葉に神々はそれ以上何も物申すことはできなかった。
「運命の女神に万が一のことがあれば、人間の魂は下界の者に全て奪われることになるかもしれないのです。それでも、まだ納得できないというのであれば、その者たちには階級や能力に関わらず下界の者たちの討伐隊に入ってもらいます」
武神でないものに下界のものと戦えと命じるのは死を意味する。
武神でも強さに差はあり、神によっては下界のものと戦うだけで重傷を負い、最悪死ぬ可能性もある。
時の神の言い方から、これ以上何か言えば最も危険な討伐隊に入れられると察した。
「誰も言わないところを見るに納得していただけたようで何よりです。今日の会議はここまでとしましょう。運命の女神だけは残ってください」
遠回しに時の神は「さっさと出て行け」と言った。
怒鳴ることも力を見せつけることもせず、ただ静かに言葉を発しただけで、格の違いを見せつけた。
神々は静かに部屋から出て行った。
自分たち以外の神が出て行くと、開いていた扉と窓が勝手に閉まる。
部屋の中の内装も変わっていく。
広かった部屋は狭くなる。
狭くなったといっても、二神だけなら十分広い。
机も長机から、丸い机に変わる。
部屋全体が白へと変わり、明るくなった。
「どうぞ。おかけください」
時の神は部屋の作りかえが終わると、新しく作り直された椅子に座るよう言った。
ヴァイオレットは椅子に座るなり、「私に何の用ですか」と尋ねた。
「それは決まっているでしょう。唯一、人間に触れることが許された私とあなたで誰に力を与えるか選ぶのです」




