恋愛ゲーム
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
うるさいアラーム音のお陰で、朝から最悪な気分で目を覚ますことができた。
とりあえずアラームを消そうとスマホに手を伸ばす。
「……7時47分……っ!やばい!遅刻!一限目に間に合わないかも!」
まだ寝ぼけていた頭は時間がわかるなり、一瞬で間が覚めた。
さっきまで、何か複雑な夢を見ていた気がしたが、刻々と一限目の時間が迫ってきているせいで考えるのをやめて、急いで大学に向かった。
朝ご飯をぬき、全力疾走で走ったおかげか、授業開始二分前に教室につくことができた。
「セーフ」
「ギリギリね」
慌てて駆け込んだせいで友達だけでなく、その教室にいた何人かにも笑われてしまった。
私は恥ずかしくなって、鞄に顔を埋めた。
その後、すぐに教室に入ってきた先生のせいでそれ以上、顔を隠すことはできなった。
「菫がギリギリに来るなんて珍しいよね。いつも、必ずって言っていいほど十分前に教室に到着してるのに」
授業が終わるなり、友達の梨々花が声をかけてきた。
「アラームの時間を間違えて設定してたみたい」
いつもは余裕をもって二時間前に起きて準備をする。
日によって起きる時間は違うが、早起きの習慣はついたので苦ではなかったが、今日みたいな出来事は初めてで家を出て大学に来るまでは焦りすぎて何度も転びそうになった。
「しっかり者の菫にもそういう日があるのね」
梨々花は少し驚いた顔をした後に笑いながら「はい。これ」と言ってポーチから取り出した折りたたみ櫛を渡してきた。
私がそれを不思議に眺めていると「髪ボサボサよ」と呆れながら言われた。
梨々花にそう言われて、慌ててスマホの画面で確認すると本当に髪がボサボサで、この姿で授業を受けていたのかと思うと恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
唯一の救いは、座る席が一番後ろだったことだ。
先生と隣に座っていた梨々花にしか授業中は見られていないだろう。
「ありがとう」
私はお礼を言うと、梨々花の手から櫛を取り、髪をとかしていく。
数回とかせば、髪はいつものように綺麗にまとまった。
もう一度、梨々花にお礼を言い、次の授業を受けるための教室に移動した。
時間はあっという間に過ぎ、昼になると同じ弓道部のメンバーで集まり昼食をとる時間になった。
木曜日は弓道部の同学年の女子で食べるという、いつの間にかできた暗黙のルールがあった。
別に嫌いな子はいないし、とても楽しい時間なので問題は何もなかった。
いつもは弓道の話か、恋バナの二択しか話題はなかったのに今日は違った。
今人気の乙女ゲームの神ゲーと呼ばれている作品の話になった。
私はゲームをしないので、その話題になった瞬間、話についていけなくなった。
私以外の部員はそのゲームを知っているのか盛り上がっていた。
大半がやったことがあるらしいが、CМをみて気になっていたと言って、そのゲームをした子たちの話を興味津々に聞いていた。
自分には関係ないな、と聞こえてくる会話を右から左へと聞き流していると、突然「菫もやってみない?」と言われた。
いきなりだったので「え?うん」と適当に答えてしまったが、それがよくなかった。
何の話をいましているのかよくわからないまま返事をした自分が悪いのだが、そのせいで彼女たちには私が恋愛に興味を示し始めた勘違いさせてしまったみたいだ。
そこからの彼女たちはゲームと恋愛の話を交互にし始めた。
話がコロコロ変わるので私には何を言っているのかわからないが、彼女たちには理解できているみたいで、楽しそうに話をし続けた。
昼食が終わり、もうすぐ五限目が始まると言うのに、彼女たちの話は終わりそうにない。
チャイムが鳴ったというのに、聞こえていない。
私が立ち上がり、教室に向かおうと歩くと一緒についてくるので、一応授業を受ける気はあるみたいだ。
明日は授業がないので休みだし、今日はこれで最後なので頑張ろうと思っていると、「じゃあ、月曜日に感想教えてね」と言われた。
「絶対に後悔しないし、好きになるから」
といつの間にか、その乙女ゲームをやることが決定し、感想をする約束をしてしまったみたいだ。
休みの日にこれといった用事もないので、そんなに言うならやってみてもいいかなと、家に帰って早速アプリをダウンロードしてプレイしてみたが、聞いていた話とだいぶ違って違うゲームをダウンロードしてしまったのかと念のため確認の連絡をするとあっていた。
彼女たち曰く、そのゲームは神々に執着されて絶望するものだという。
本当にこんなゲームが人気なのかと疑いたくなるほど、攻略対象たちの神々は酷かった。
ヒロインの女の子は定番のヒロインとは違い、クール系の美女であまり笑わない。
彼女は人間たちを守る、輪廻転生を司る運命の女神という設定だ。
名前は好きに設定できるようになっていた。
出てくるキャラは全員カタカナで表示されるのに、自分だけ感じで日本人っぽい名前は世界観にあっていないので「菫」の名前を英語で読んだ「ヴァイオレット」と入力した。
神ゲーというだけあって、イラストは本当に綺麗だった。
BGMも神秘的な感じで、どんどんゲームの世界に引き込まれていった。
普通に面白いと思ったが、途中から攻略対象の様子が明らかにおかしくなっていった。
いや、いや、なんでそうなる、と理解できない場面があったが、そのとき昼に友達が言っていた言葉をなぜか思い出した。
「神の思考など私たちには理解できない。理解する必要はない、非現実を楽しむだけよ」
今思えば、このゲームを作ったのは人間なのに何を言っているんだ、と友達を頭の中でタコ殴りする。
残り三話というところでゲームを中断するという選択はなく、最後までやるとバッドエンドの方に進んでしまった。
バッドエンドは神に愛されるルートに一応なっているが、その愛は異常でヒロインは二度と男が用意した部屋から出ることができなくなるという最後だ。
どのキャラでも最後は同じらしく、納得いかないためハッピーエンドの結末を見たくて何度もプレイしたが三日かけてようやくそのルートにたどり着くことができた。
ようやくヒロインの幸せな最後を見れると、達成から泣きそうになった。
ゆっくりとハッピーエンドと書かれた画面をタップし、ストーリを進めていくが、思っていた最期とは全く違った。
ヒロインにとってはハッピーエンドなのかもしれないが、攻略対象から逃れるために、自分の首を斬って奈落の下に落ち、彼らの手に渡らないようにするどこが、ハッピーエンドと言えるのだろうか。
「これのどこが、神ゲーなのよ」
文句の一つでも言ってやろうかと友達の連絡先を開くが言っても無駄な気がして、自分と同じ意見を持っている人がいないかSNSで探すが、全部このゲームを褒める投稿しかなく、自分がおかしいのかと思えてしまう。
きっと寝不足だから、みんなと違う意見になったのだ、と画面をつけたまま突然襲われた眠気に勝てず、そのまま気絶するように意識を手放した。
そして次に目を覚ますと、私はさっきまでプレイしていた神ゲーと呼ばれる悲劇のヒロインになっていた。




