プロローグ
「愛してる?」
あと少しで崖から落ちてしまいそうなところに美しい銀髪の女性が立ちながら、男性に向かって凍てつくほどの冷たい口調で問いかけた。
これは夢なのだろうか?
妙にリアルで夢とは思えないが、二人の格好はまるで西洋な神様たちがするような恰好で、夢だと認識するしかないものだった。
それに周りの風景も、あまりにも非現実的で神秘的なため、そう思うしかなかった。
「あなたは私を愛してなどいないわ」
女の声は悲痛で、聞いているだけなのに胸が張り裂けてしまいそうになる。
月は眩いほどの光を発しているが、女の顔は陰になっていてよく見えなかったが、声から簡単にどんな表情をしているのか想像できた。
「どうして、こんなことをするの?私があなたに何をしたっていうの?」
女の悲痛な叫びを聞いても何も言わない男にどんな顔をしているんだ、と腹をたてながらそちらに視線をやるが、女と同じように顔が陰になっていて見ることはできなかった。
ただ、遠くからでもわかるほど腰まである綺麗な金髪に服の上からでもわかるほど美しい筋肉をつけた体だった。
「いっそ、嫌いだからって言われた方がマシだわ」
いったい、どれだけのことをしたら女からこんなことを言われるのだろうか。
怒りや憎しみがこもった女の声は酷かった。
形容することができないほど、心が苦しくなるようなひどい声だった。
「……」
それでも男は何も言わなかった。
なぜ、彼女の叫びに対して何も返事をしないのかと、また男の方に視線を向けると、夢でなかったら、きっと叫んでいただろう。
さっき見た男と違う男に変わっていた。
ストレートの金髪からウェーブの銀髪で毛先が水色に変わっていた。
服装もさっきよりはだけていて、鍛えられた体が露わになっていた。
いったい私は何の夢をみているのかと思ってしまう。
「何も答えないのね」
女は全てを諦めたかのような口調で呟いた。
今にも消えてしまいそうなほど儚い声で、妙な胸騒ぎがするほどだった。
「これが何かわかる?」
女は服の下に隠していた剣を取り出し、男に見せる。
その剣を見た瞬間、男はそれが何かわかったのか息をのんだ音が聞こえてきた。
「お前……!」
男は慌てて声をかけるが、それ以上続きを言う前に女が遮るように話をした。
「そう。想像している通りのものよ」
「やめろ!」
さっきとは違う男が叫ぶ。
今度は真っ赤な長い髪を三つ編みした男だった。
「来ないで!」
女は剣を首につきつける。
「それ以上近づかないで!」
夢だとわかっているのに、女の声を聞いたからか金縛りにあったみたいに感じた。
「私はもう、自由になりたいの。お願いだから、もう解放して」
そう言うなり、女は剣を横にずらした。
そのせいで、女の首から大量の血が流れた。
紫がかった腰まである黒髪の男は慌てて駆け寄るが、それより先に女は崖の下に落ちていった。
崖の下は雲のような霧に覆われていて、女がどうなったのかわからなかった。
何とも言えない後味の悪い夢だと思いながら、早く現実に戻りたいと思っていると、男がこちらを見ている気がした。
目が合った?
そんなはずはないと思うのに、そんな気がした。
きっと、空を見上げたところに自分がいたからそう勘違いしただけだと思うことにした。
そう納得しようとしたとき、男の口から恐ろしい言葉が聞こえてきた。
「絶対に逃がさない。今度こそ、どんな手を使ってでも捕まえてやる」
その声はおぞましい執着に聞こえ、女が何故死んででも逃げ出そうとしたかったのかわかった気がした。
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