第8話 聖女の違和感
王都は、
ルーンハルトとは
比べ物にならないほど
大きかった。
高い城壁。
整った石畳。
規則正しい街路。
少年は、
きょろきょろと
首を動かす。
「……迷いそうです」
マークが、
即答する。
「もう迷ってる」
王城の奥。
白い回廊。
高い天井。
静けさが、
耳に痛い。
一室の前で、
バルトが立ち止まる。
「ここだ」
扉が、
ゆっくり開く。
中は、
柔らかな光に満ちていた。
中央に、
ひとりの少女。
白い衣。
銀色の長い髪。
年の頃は、
少年と同じくらい。
「聖女ミレーヌだ」
少女は、
静かに微笑む。
「初めまして」
声は、
澄んでいた。
少年は、
慌てて頭を下げる。
「ど、どうも」
ミレーヌは、
少年をじっと見る。
瞬き。
そして、
微かに眉をひそめた。
「……見えません」
場が、
凍る。
バルトが、
問い返す。
「何がだ」
ミレーヌは、
小さく首を振る。
「未来が」
少年は、
意味が分からない。
「えっと……
明日は晴れます?」
誰も、
笑わなかった。
ミレーヌは、
ゆっくり歩み寄る。
少年の前で、
立ち止まる。
「普通の人は、
ぼんやりでも
道が見えます」
「あなたには、
何もない」
少年は、
震える声で言う。
「……悪いですか」
ミレーヌは、
首を振る。
「分かりません」
正直だった。
「ただ……
恐ろしいです」
沈黙。
ギレンが、
低く言う。
「理由は」
ミレーヌは、
目を閉じる。
「未来が
決まっている場所は、
視えません」
少年は、
ぽつりと。
「運が、
いいだけです」
ミレーヌは、
静かに否定する。
「いいえ」
「あなたの周囲だけ、
結果が先に
存在しています」
少年は、
頭が追いつかない。
「……難しいです」
ミレーヌは、
少しだけ微笑んだ。
「でしょうね」
バルトが、
決断する。
「最深部へ行く」
少年は、
即座に言う。
「やっぱり無理です」
誰も、
止めなかった。




