第6話 モンスターが自滅する
迷宮の奥へ進むほど、
空気は重くなる。
湿り気を帯びた風が、
肺の奥まで入り込む。
松明の火が、
わずかに揺れていた。
少年は、
足取りがますます重い。
「……帰りたいです」
小さな声。
マークは、
前を見たまま言う。
「帰れるなら
もう帰ってる」
ギレンは、
地図を確認する。
「この先が
中層だ」
少年の顔が、
引きつる。
「まだ半分ですか……」
通路が、
急に広くなる。
天井も高い。
中央に、
巨大な影。
筋骨隆々。
身長は三メートル近い。
オーガ。
マークが、
歯を食いしばる。
「中層の主か……」
少年は、
完全に固まった。
「無理です。
絶対に無理です」
オーガが、
雄叫びを上げる。
地面が、
びりびり震える。
マークが、
盾を構える。
「俺が引きつける!」
ギレンが、
魔法の詠唱を始める。
少年は、
後退しようとして、
石につまずく。
「うわっ!」
尻もち。
オーガが、
少年に気づく。
巨腕を振り上げる。
少年は、
反射的に叫ぶ。
「ごめんなさい!」
その瞬間。
オーガの足元の石が、
砕ける。
バランスを崩す。
「ぐおっ!」
巨体が、
前のめりに倒れる。
だが、
それで終わらない。
オーガは、
怒りに任せて、
天井を殴った。
ドゴン!
岩盤が、
悲鳴を上げる。
巨大な岩が、
次々と落下。
オーガの頭上へ。
ごしゃり。
土煙。
静寂。
しばらくして、
煙が晴れる。
そこには、
岩に埋もれた
オーガの姿。
完全に動かない。
マークは、
口を開けたまま。
ギレンも、
言葉を失っていた。
少年は、
震えながら言う。
「……怒りすぎ
よくないです」
マークが、
ゆっくり振り向く。
「お前、
何者だ……」
少年は、
本気で困った顔をした。
「……普通の人です」
ギレンは、
静かに言う。
「普通は、
迷宮に災害を
起こさない」
先へ進む。
瓦礫を越え、
細い通路へ。
少年は、
何度も転びそうになるが、
毎回、
壁にぶつかる前に止まる。
マークは、
もはや何も言わなかった。
ギレンだけが、
確信を深めていた。
――この少年の周囲では、
成功率が
固定されている。
少年自身は、
そんなこと、
夢にも思っていない。
ただ、
震えながら、
歩いているだけだ。




