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第4話 黒鉄の迷宮への誘い


ギルド長室は、

表の喧騒が嘘のように

静かだった。


分厚い扉。

遮音の魔法石。


外の音は、

ほとんど聞こえない。


部屋の中央に、

少年が座っている。


椅子の背に、

背中をぴったりつけ、

両手は膝の上。


まるで、

叱られる子どもの姿だ。


向かい側には、

ギルド長ギレン。


腕を組み、

じっと少年を見る。


「確認する」


ギレンは言った。


「お前は、

自分が強いと思わない」


少年は、

こくりと頷く。


「はい」


「なのに、

結果だけ見ると、

異常だ」


少年は、

視線を落とす。


「……運が、

いいだけです」


ギレンは、

しばらく黙っていた。


やがて、

低い声で言う。


「なら聞く。

運だけで、

どこまで行けると思う?」


少年は、

少し考えた。


「……死なない

くらいまで?」


ギレンは、

苦笑した。


「十分すぎる」


机の上に、

地図を広げる。


黒い印が、

一つ。


「黒鉄の迷宮」


少年は、

思わず身を乗り出す。


「ダンジョン……」


「王国管理のB級」


少年の顔が、

引きつる。


「む、無理です」


「お前一人で

行かせる気はない」


ギレンは、

指を鳴らす。


扉が開く。


入ってきたのは、

マーク。


「護衛役だ」


マークが、

腕を組む。


「俺も反対だ」


ギレンは、

即答する。


「だが、

調べる価値がある」


少年は、

おずおずと手を上げた。


「えっと……

何を調べるんですか」


ギレンは、

真っ直ぐに言った。


「お前だ」


沈黙。


少年は、

目をぱちぱちさせる。


「俺、

調査対象なんですか?」


「そうだ」


マークが、

ため息をつく。


「……やっぱり

普通じゃねぇ」


少年は、

必死に否定する。


「普通です!

よく転びますし!」


ギレンは、

口元を歪めた。


「転んで、

敵が死ぬ普通があるか」


少年は、

何も言えなかった。


数日後。


迷宮の入口前。


黒く錆びた鉄の扉が、

地面からせり出している。


空気が、

重い。


少年は、

ごくりと唾を飲む。


「帰りたいです」


マークが、

肩を叩く。


「帰れるように

守る」


ギレンも同行していた。


「異変があれば

即撤退だ」


少年は、

何度も頷く。


扉が開く。


中は、

薄暗い石造りの通路。


湿った匂い。


一歩、

また一歩。


足音が、

妙に大きく響く。


「……静かですね」


少年が言う。


マークが、

眉をひそめる。


「静かすぎる」


その瞬間。


通路の天井が、

きしむ。


ギレンが叫ぶ。


「退け!」


少年は、

反射的に前につんのめる。


落石が、

背後に落ちる。


どん!


少年のいた場所だけ、

なぜか崩れない。


沈黙。


マークが、

少年を見る。


「……無傷だな」


少年は、

震えながら言う。


「す、すみません」


ギレンは、

静かに呟いた。


「……始まったな」


少年には、

その意味が

分からなかった。


ただ、

自分の心臓が

うるさいほど

鳴っているだけだった。


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