第3話 Aランクが困惑する日
冒険者ギルドは、
今日も騒がしい。
酒場よりも騒がしく、
市場よりも荒々しい。
それでも、
この場所には
奇妙な秩序がある。
強い者が上。
弱い者が下。
単純で、
残酷で、
分かりやすい。
その秩序の中で。
ひとりのFランク少年が、
カウンターの前に立っていた。
「薬草採取、
完了です」
マリンが、
袋の中を確認する。
「……全部良品ですね」
少年は、
照れくさそうに頭を掻く。
「たまたまです」
マリンは、
苦笑した。
「たまたま、
多すぎません?」
そこへ、
後ろから声が飛ぶ。
「おい」
振り返ると、
二人組の少年が立っていた。
同じ年頃。
だが、
装備は一級品。
鋭い視線。
無駄のない立ち姿。
「Aランクの、
アランとランドだ」
名乗ったのは、
赤髪のほう。
隣の金髪の少年が、
じっとこちらを見る。
「Fランクが、
Bランクと組んで
無傷で帰ってきたって?」
少年は、
視線を逸らす。
「えっと……
運が良かっただけです」
アランが、
口角を上げる。
「じゃあさ」
「模擬戦しようぜ」
少年の顔が、
真っ青になる。
「む、無理です!」
「武器持たなくていい」
ランドが言う。
「避けるだけでいい」
マリンが、
止めに入る。
「いじめは……」
アランが、
首を振る。
「違う。
確認だ」
ギルド内に、
円ができる。
野次が飛ぶ。
「やれやれ!」
「Aランク相手は無理だろ」
少年は、
完全に震えていた。
「……殴られたら、
謝ります」
誰に対してかも
分からない言葉だった。
開始の合図。
アランが、
一気に踏み込む。
速い。
少年は、
反射的に後ずさる。
足が、
もつれる。
転びそうになる。
その瞬間。
アランの足が、
床の水たまりを踏む。
「っ!」
体勢が崩れ、
拳が逸れる。
拳は、
隣にいたランドの腹へ。
「ぐふっ!」
ランドが、
前のめりに倒れる。
少年は、
完全に固まっていた。
「……え?」
ランドは、
倒れた拍子に
アランの足を引っかける。
二人まとめて転倒。
ごつん、
と頭がぶつかる。
沈黙。
数秒後。
アランが、
むくりと起き上がる。
「……おい」
ランドも起きる。
「今の、
何だ」
少年は、
必死に首を振る。
「俺、
触ってないです」
再開。
今度は、
ランドが前に出る。
高速の蹴り。
少年は、
目を閉じてしゃがむ。
蹴りは、
天井の梁に当たる。
梁が、
ぐらりと揺れる。
小さな木片が落下。
ランドの額に、
直撃。
「いてぇ!」
ランドが、
しゃがみ込む。
アランが、
唖然とする。
「……戦ってないぞ」
少年は、
涙目だった。
「だから、
言ったじゃないですか……」
周囲の冒険者たちが、
ざわつく。
「どうなってる……」
マリンは、
そっと呟いた。
「……避けるだけで、
勝ってる」
ギルド長ギレンが、
腕を組む。
鋭い視線で、
少年を見る。
「確認する」
ギレンが言う。
「お前、
自分が強いと思うか?」
少年は、
即答した。
「思いません」
「なぜだ」
「だって、
何もできないので」
ギレンは、
小さく息を吐く。
「……厄介だな」
少年は、
意味が分からず、
首を傾げた。
その背後で。
世界の歯車が、
また一つ、
静かにズレた。




