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第2話 俺、戦ってないんだけど


街を出てしばらく歩くと、

景色はゆっくりと変わっていく。


石畳は土道になり、

建物は木々に置き換わる。


鳥の鳴き声と、

風に揺れる葉の音だけが、

周囲を満たしていた。


少年は、

男の少し後ろを歩いている。


背中は大きく、

歩幅も広い。


「……あの」


少年が声をかける。


「ん?」


「お名前、

聞いてもいいですか」


男は、

あっさりと答えた。


「マークだ。

Bランク冒険者」


少年の喉が、

ごくりと鳴る。


「Bランク……」


自分が持つ木札を、

無意識に握りしめた。


Fランク。


世界の底辺。


「俺は……えっと」


少年は、

少し言いよどんだ。


「……まだ、

名前ないです」


マークは、

一瞬だけ足を止めた。


「は?」


「あ、いえ。

書類には書きましたけど」


「じゃあ言えよ」


「……」


少年は、

視線を逸らす。


「呼ばれるほど、

立派じゃないので」


マークは、

頭を掻いた。


「変なやつだな」


それ以上、

深くは聞いてこなかった。


森の中へ入る。


日差しは弱まり、

空気はひんやりとしていた。


「薬草は、

赤い葉っぱが目印だ」


マークが言う。


「触るときは手袋な。

素手だとかぶれる」


少年は、

何度も頷く。


「はい」


しばらくは、

何事もなく進んだ。


少年は、

地面ばかり見て歩く。


石。

枯れ枝。

落ち葉。


どれも同じに見える。


「……あ」


足元で、

赤いものが揺れた。


「これですか?」


マークが覗き込む。


「お、当たりだ」


少年は、

そっと引き抜く。


簡単に、

抜けた。


「意外と、

すぐ見つかりますね」


「普通はもっと苦労する」


マークは、

眉をひそめた。


数分後。


「……またあった」


さらに数歩後。


「……ここにも」


マークの表情が、

徐々に変わっていく。


「おかしいな……」


袋は、

あっという間に

半分以上埋まった。


そのとき。


ガサリ、と

草むらが揺れた。


マークの動きが、

一瞬で変わる。


「下がれ」


少年は、

言われた通り、

後ずさった。


草むらから現れたのは、

緑色の小柄な影。


尖った耳。

汚れた短剣。


ゴブリン。


「ちっ、

三匹か」


マークが剣を抜く。


少年は、

完全に固まっていた。


「に、

逃げたほうが……」


「俺が前に出る」


マークは、

地面を蹴った。


だが。


踏み込んだ瞬間、

足元の小石を踏む。


「うおっ!」


体勢を崩し、

剣が手から離れた。


剣は、

回転しながら飛ぶ。


一直線に。


――ゴブリンの額へ。


ぐしゃり。


一匹目が、

声もなく倒れた。


沈黙。


マークも、

少年も、

口を開けたまま固まる。


「……え?」


残り二匹が、

悲鳴を上げて逃げ出す。


だが。


走り出した直後、

互いにぶつかった。


転倒。


その拍子に、

短剣が宙を舞う。


二本とも、

なぜか――


互いの首に、

正確に突き刺さった。


どさり。


静寂。


風の音だけが、

戻ってきた。


少年は、

震える声で言った。


「……ま、

マークさん」


「……なんだ」


「俺、

何もしてないです」


マークは、

ゆっくりと

少年を見る。


「……だな」


数秒。


十秒。


やがて、

マークは笑った。


「……すげぇ運だな」


少年は、

必死に頷いた。


「そ、そうなんです!

昔からこうで……」


マークは、

それ以上言わなかった。


だが、

胸の奥で、

小さな違和感が

芽生えていた。


――偶然にしては、

出来すぎている。


だが、

それを言葉にするには、

まだ早かった。


袋の中は、

すぐにいっぱいになった。


依頼達成。


帰り道。


少年は、

小さく呟く。


「冒険者って、

意外と楽ですね」


マークは、

何も答えなかった。


ただ、

少年の背中を、

無言で見つめていた。


――世界が、

静かに歪んでいることを、

まだ誰も知らない。


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