表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

最終話 薬師の男



 男は街で薬師として生計を立てていた。

 朝が来たら店を開け、作った薬を客に売り、時間が来たら店を閉める。

 そんな生活を何年も続けている。

 ある日、男は薬品棚の整理をしていた。

 昨日偶然出来た薬をしまおうと思ったのだ。

 有り合わせを調合してみただけの偶然の産物だ。

 効果もよく分からないので売るわけにはいかないが、かといって適当に捨てるわけにもいかない。

 手の届かない所にこの薬瓶をしまおうと、踏み台に足をかけた瞬間、足元をネズミが走った。

 驚いた男は体勢を崩してしまい、台から転げ落ちた。

 その拍子に手から離してしまった薬瓶が、そのまま後頭部に当たり、割れた。

 床には割れた瓶の欠片と虹色の液体が広がり、髪からその液体が滴り落ちている。

 男の体にエフェクトが輝いた。


 ※


 薬を被ったあの日から、男は外に出られなくなった。

 薬の効果は男に様々なことを気づかせた。

 慣れ親しんだ街がハリボテであること。

 気のいい住民たちは決まった動きを繰り返す人形であること。

 男は偽物の世界でただ一人ぼっちになってしまった。


 ※


 男は大岩壁の頂上に小さな仮住まいをこさえ、そこで暮らしていた。

 やることは二つだけ。


 日があるうちは調薬をすること。

 また朝が来るまで瞑想をすること。


 そんな生活が二十年ほど続いたある朝、男は紐の付いた大きな頭陀袋を掛けれるだけ体に掛けて、大岩壁を降りて行った。


 ※


 男が二十年ぶりに帰ってきた街は、昔見た姿と何も変わっていなかった。

 中央広場の噴水、大通りのバザール、石畳で遊ぶ子どもたち、景色も彼らの顔ぶれも、池に映る自分の顔も、何も変わっていない。

 男が自分の店に帰ると、男と同じ顔の店主が、いらっしゃいませと言った。

 男は頭陀袋から取り出したポーションを店主に投げつけた。

 店を飛び出した男は住民たちにもポーションを投げつけた。

 やがて頭陀袋が空っぽになると、男は崖の上へ逃げ出した。


 ※


 崖の頂上で男は座り続けた。

 もう何年経ったか分からない。

 男が振り返ると数人が自分を拝んでいた。

 男は、孤独に耐えられず住民たちに同じ薬を投げつけたことを、後悔していた。

 今の男の目には世界の全てが0と1のモザイクアートに見える。

 あまりの世界の寒々しさに、毎日男は凍えている。

 この者たちも座り続ければいつか、自分と同じ思いをするのだろうか。

 自分には、この者たちの苦しみを引き受ける責任がある。


 ※


 その日男はありったけのポーションを煽って座り込んだ。

 もうすぐ朝日が昇る。

 男は必死に願った。

 地平線に朝日が昇る。

 男は光を浴びると、エフェクトと共に0と1の世界に溶けて行った。

 

 ※


 ジョード教の聖地は二つ。

 中興の祖である聖人ニヤーマの静戒洞と、覚者ジョードが悟った崖上の祠堂である。

 祠堂の中には教団の本尊が飾られている。

 無数の0と1が刻み込まれた石板。

 それはジョード自身が慈悲そのものになった姿と言われている。


 ※


 JODO ONLINE 検証.com

 Q.ジョード教団の石板の01何?

 A.UTF-8で文字に起こすと『この世界を楽しんで』になる。


 完

 

最後まで読んでくれた方ありがとうございました。

ブックマーク、リアクション、とても力になりました。

初めての書き物で読みづらい点多々ございましたでしょうが、お付き合い頂いて感謝です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ