第九話 傲慢のヨスガ
「ハハハハハ、お前如き?王権遺宝を手にすることもできず、泣く泣く逃げ帰っただけの君が、この僕に向かって、なんだって?」
カイルの瞳は苛立ちで充血しながらも、その振る舞いは心底愉快そうであった。
「逃げたことを否定はしないが、普通は逃げることさえできないのが王家の墓だと、お前も知らないわけじゃないだろうに。」
カイルを嘲るように俺は口にした。
「普通は逃げることはできない、か。数百年間一人たりとも侵入者を逃したことがないのが王家の墓だと言われているがな...。それは一つの事実だが、しかし誤りでもある。最高刑というのは今でこそ王家が定めたかのように言われているが、実際は違う。最高刑と呼ばれるそれは王家の墓への捧げものを奉納する儀式の別名なんだ。おそらく王権遺宝に課せられた制約が最高刑なんだ。王家の墓から逃げることが出来たお前は王権遺宝の力を凌駕したということにほかならない。」
俺が思っているよりもカイルは王家の墓の秘密について調べていたらしい。
その点で言えば、現時点で情報面で彼は圧倒的に有利な立場にある。
しかし王権違宝の力を凌駕したのが俺であっても、カイルが同様の恩恵を受けることが出来るかと言えば、それは甚だ疑わしいものである。
父祖の無念。今となっては名前を知るのみの姉からの手紙に書かれていた言葉。
王家の墓と俺の血筋には何かしらの関りがあるのは間違いない。
そして、手紙のことは俺以外誰も知り得ないことだ。
王家の墓に忍び込めるチャンスがパレードの日しかないとはいえ、それに俺を利用しようというのは迂闊としか言いようがない。
その話が嘘か真かは知らないが、少なくとも俺は失われし王権というナニカが王家の墓を暴くための手がかりとなることを知っていた。
失われし王権。この三年間カイルに出会う前から手がかりだけを追って、けれどほとんど何も分からなかったもの。
ただ一つだけ、300年前に大いなる王権が失われたという言い伝えを耳にしただけだ。
失われし王権が王家の墓を暴くためのカギであることは姉の手紙からも間違いのないことだろう。
現状で俺がカイルに対して有利なのは王家の墓から逃げたことがあるという点と、失われし王権に対する少しばかりの知識だけだ。
しかし、そもそもの話、王家の墓に侵入すること自体が無謀であるのだ。
そういう意味ではカイルに対して優位に立って言おうがどんぐり乗せ比べというものだ。
だが、カイルにこのことをわざわざ教えてやろうなどと言う親切心は一切なかった。
「ご高説痛み入るよ。で?仮にそれが本当だとしてお前はなんだ?俺が王権遺宝を凌駕しようが、お前も同じである保証はないだろうに。」
俺は嘲りの感情を表情に乗せることを意識しながら、カイルに煽りの言葉を聞かせた。
「あくまで君は保険だ。王家の墓のことを知ろうとしたものは過去にいくらでもいるだろうが、その情報を持ち帰った人間はいない。なぜ君が逃げられたのか。もう一度逃げることはできるのか。不確定要素だらけだと言えども、過去に君のような例外は存在しなかった。僕にとっても君を連れていくことはリスクだが、僕の勘は君を連れていくべきだと言っているのさ。」
「まるで何事も起きなければ順当に王権遺宝を手に入れることが出来るかのような口ぶりだな。見積もりが甘いんじゃないのか?」
「当然だね。僕は騎士宝典を有しているのだから。」
自信満々にカイルは言った。




