第十一話 飛んで火に入る
するなと言われれば人はかえってそうしてしまいたくなるものだ。
カイルが王家の墓にどれほどの不安を抱いていようと、彼はもう引き返せないだろう。
自分から見て不利な立場にある者からお前には無理だと言われて、そのまま引き下がろうとするのは弱みを見せるのと同じだ。
弱い人間は舐められるし、弱みには付け込まれる。それが悪党の世界の常識だ。
悪党の世界で生きてきたカイルには、骨の髄までそのルールがしみ込んでいる。
たとえ虚勢であっても貫き通さなくては寝首を搔かれることになる。
侮られたのであれば、それに必ず反論してやり返さなければならない。
正しいのは常に己であると示さなければならない。
俺はカイルにもその習性があると考え、半分くらいは本心だったが、敢えてカイルに対して無理だと言葉にした。
無理だと言われてじゃあ無理かと引き下がるようなら、最初からカイルは王家の墓を狙ったりはしなかっただろう。
わざわざ口にしなくてもカイルは王家の墓へ行ったかもしれないが、しかし、俺が煽ったことによってカイルは騎士宝典を持っていると口を滑らせた。
少し揺さぶりをかけてやるくらいの心積もりだったが、思わぬ情報が得られてしまった。
内心でそれをほくそ笑みながら、次の言葉を口にした。
「やれるものならやってみろよ。力があろうがなかろうが、臆病者には遠い夢なんだからよ。」
「ああ言えばこう言う、か。全く君は口が減らないね。」
「それはお互い様だろ?で、未来の王サマ。お前は一体いつ王家の墓に忍び込むつもりだ?まさかそんなことも決めずに俺に声をかけたとは言わないよな。」
「明日にでもと行きたいところだけどね。今のところは王選祭のパレードの夜に決行する計画さ。」
「パレードの夜?警備が厳しいのにか?」
「そうとも限らないさ。パレードの夜だからこそ衛兵も浮かれるのかもしれないだろう?」
惚けたようにカイルは言った。
「馬鹿言え。そんなの理由になってねえよ。根拠をだせって言ってるんだよ。それとも、またお得意の勘か?」
「そうかもしれないね。だけど、君の顔に書いてあったよ。狙うならパレードの夜ってね。」
姉からの手紙にもパレードの夜が良いだろうとは書かれていたが、カイルがそれを知るはずはない。
普通だったら避ける選択をカイルは堂々と口にした。
わざわざこちらからパレードの夜にした方が良いと提案する手間が省けたと思えばむしろありがたいことだったが、しかし、カイルの余裕の表情の裏には侮ってはいけない気配がした。
俺の本名や王家の墓へ侵入した過去について知りながら、実際に何が起きたのかは知らず、それでいて、俺が王家の墓を攻略する鍵になるだろうと考えている。
そして、パレードの夜が危険なようで1番侵入が容易いこともわかっている。
これがカイル個人の能力だというのなら驚だが、そんなわけはないだろう。
十中八九騎士宝典の恩恵だと思った。時々感じた彼の特異的な感の鋭さ。騎士宝典を持っていると言われなければ意識することもなかったほどの些細な違和感。
もし彼の勘の鋭さが騎士宝典によるものであるのならば、それを出し抜こうとするのは少々骨が折れそうだった。
思わず重たいため息が出た。
「どうにも理由を話したくないらしいな。まぁ、いい。パレードの夜、結構じゃないか。」
「そう言ってくれると思ったよ。」
にこやかにカイルは言った。
作戦なんぞ聞いても仕方ない。そう考えた俺は立ち上がり、カイルの部屋を後にすることにした。
「もう行くのかい?」
「聞きたいことは聞けたからな。」
扉を開き、一度カイルに目を向けてから俺はフッと鼻息で少し笑って見せた。
「お手並み拝見だな、子悪党。パレードの夜にまた会おう。」
そう言ってから、俺は扉を閉めて去った。




