第十話 死を招く呪い
騎士宝典。王権遺宝に次ぐ大秘宝。
それがカイルの自信の理由。
「なるほどな。それがあればたしかに届くかもな。王権貴宝に。」
目の前で指輪を撫でた男のしぐさを俺は見逃さなかった。
心にもない言葉は存外に彼の自尊心をくすぐったようだ。
____その指輪がお前の騎士宝典か。
過去に俺は3度、騎士宝典の使い手を見たことがあった。
それは決まって必要に駆られての使用だ。いざってときの切り札。
騎士宝典の使い手は自らが騎士宝典を持っていることを悟られないように振る舞う。
騎士宝典に課せられた制約。それが使い手の命に常に牙を突き立てているから。
騎士宝典は使い手を選ばない。王権遺宝もそうなのかは不明だが、不思議な力を宿した宝具というのは得てして使い手を選ぶものだ。
通常、宝具の性能は使い手に左右される。
ある者が使えばマッチ一本程度の火を起こすだけだが、別の者が使えばその百倍以上の出力の火をおこすことができたりと、使い手によって千差万別の効果を持っている。
しかし、騎士宝典にはこれが当てはまらない。
誰が使っても強大な力を発揮できる宝具。
騎士章典は使い手を選ばない。
実はこのことは宝具を追い求める者でも一握りしか知らない話だ。
だから、カイルが知らなくても不思議なことではない。
手にした者の命ある限り、騎士宝典は所有者以外の何者も扱うことができない。
それが騎士宝典に課された唯一の制約。
つまり、騎士宝典が欲しいなら殺して奪うしかない。
だからこそ、騎士宝典の持ち主は自分が気になるであることをひた隠しにするのだ。知られたが最後、誰から命を狙われているか分からなくなるから。
別名、呪いの宝具。殺して奪った者であれば真実を知り、そうでないものは無知の代償を己の命で支払う。
カイルはきっと知らないだろう。知っていればわざわざ持ち主であることを教えたりはしない。
一流の悪党は己の身振り手振りにすら気を使うが、その点でカイルは詰めが甘い。
獣が獲物を前にして食欲を抑えられないことと同じように、カイルは己の欲望を前にして理性を保つことができない。
己より劣ると思った相手への優越感が本来は避けるべき行動を取らせる。
王権遺宝に次ぐ力を持つという騎士宝典。その脅威を俺は知っている。
だから、カイルが無敵の力を得たと考える気持ちもわからんでもない。
俺だって騎士宝典の持ち主とはまともにやりあいたいとは思わない。
何の宝具も持たなければ、普通は勝ち目などないからだ。
けれど、今回に限ってはその必要はなかった。
やはり、カイルは見積もりが甘すぎる。騎士宝典の持ち主ごときが王家の墓を攻略できるというのは全くの見当違いだ。
これまでカイルが行ってきたような盗賊行為とはわけが違うのだ。
そのことをわざわざ指摘してやる必要はない。
「格の違いを理解できたかな?君が何と言おうと僕の勝利は覆らないよ。僕が王家の墓を狙うのをやめさせたいんだろうけど、そんなこと何の脅しにもならないんだ。」
俺の本当の狙いも知らないで、カイルは得意げだった。




