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第四十八話:枯れたニンニク


通路はさらに深く、不気味な静寂を纏っていく。壁の両側には、かつて商品として人間を閉じ込めていたのであろう錆びついた牢獄が並んでいた。エヴァンズは歩みを緩めるたびに、重苦しい錆の浮いた格子を一つ一つ、丁寧に覗き込んでいた。


「……先生、何をしているんですか。先を急ぎましょうよ」


フローラが眉を寄せて声をかけると、エヴァンズは視線を牢の奥から戻さずに答えた。


「……生き残りがいたら困ると思いましてね。たとえば、エルフだとか。この狭い檻の中に数百年……それはあまりに苦しいでしょう」


「……流石にいませんよ。エルフの寿命は長くても300年ほどだと言われています。当時の生き残りがいるなんて、現実的じゃありません」


「それでも、念のためです。幼く囚われたのならばあり得なくもないでしょう」


「……洒落になりませんよ」


フローラは背筋に走る戦慄を誤魔化すように、腕をさする。数百年前の商品とされたものが、死ぬことも許されず闇の中で蠢いている――そんな想像は、この淀んだ空気の中ではあまりに現実味を帯びすぎている。


やがて、エヴァンズが照らし出す光の輪の中に、何かが白く浮かび上がった。


「おや……ニンニクですね。これは当時の残骸でしょうか。どうやら昔の奴隷商たちも、吸血鬼対策だけは怠っていなかったようです。一応、これなら安心できそうですね」


フローラは顔を寄せ、その塊を忌々しげに一瞥した。


「……いや、先生。これ、枯れてません? そもそも、こんな状態のニンニクに効果なんてあるんですか?」


「さて。私はニンニクを腐らせた経験も枯らした経験もないので分かりませんね。退散の要は匂いですから……流石に無理でしょうか。ですが、少なくとも枯れるまでは機能していたという事実に、少しは安心できませんか?」



エヴァンズがどこか他人事のように肩をすくめる。その様子に、フローラは一つ小さく息を吐き、首を振った。


「……もういいですよ、先生。無理に安心させようとしなくても、もう焦ってはいませんから。大丈夫です」


「…そうですか。それは良かった」


エヴァンズは短く答えると、再び歩き出した。

だが、数歩も行かないうちに、また何かが床に転がっているのが見えた。


エヴァンズは短く答えると、再び歩き出した。

だが、数歩も行かないうちに、また何かが床に転がっているのが見えた。


「なんだ、またニンニクか?」


フローラが不用意に足を踏み出した、その時だった。


「――待ちなさい」


エヴァンズの手が、フローラの肩を強く引き戻した。

またかと思い、抗議しようとした彼女を無言で制し、エヴァンズは彼女を自分の背後に置いたまま、ゆっくりとその「何か」へと歩み寄る。ランプの光が一点に収束し、細長く伸びた影の正体を浮き彫りにした。


「これは……」


「なんですか」


背後から覗き込もうとするフローラに、エヴァンズが低く、温度のない声で告げた。


「吸血鬼ですね……」


心臓が跳ねた。フローラは反射的にエヴァンズの服を掴んで引き戻そうとしたが、彼は動かない。


「大丈夫ですよ。……いえ、大丈夫というのは言い過ぎですね…。まだ生きているようですから。……ですが、自由に動くことはできないでしょう。メイさん、少しこちらへ」


エヴァンズがわずかに身を引くと、ランプの光が床の異形を露わにした。


そこには、一匹の鼠がいた。

口元からは、身の丈に合わない凶悪な牙が突き出している。あの墓場で見た鼠の吸血鬼と同じ種類のようだ。全身の半分が焼け焦げた灰のように崩れている。そして残った半身が、ピク、ピクと不自然な痙攣を繰り返していた。


「鼠の、吸血鬼……」



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