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第四十一話:吸血鬼の講義


「さて、吸血鬼という生き物について、我々の共通認識をすり合わせておきましょう。メイさんは、彼らの弱点についてどこまでご存知ですか?」


エヴァンズが抜き打ちテストでも始めるかのような気軽さで問いかけてきた。フローラは記憶の引き出しをひっくり返す。


「そうだな……。定番なのはニンニクに、銀の武器。後は有名どころだと、直射日光もですね。それから勿論、ユスティナの花だな。あとは神殿の連中が得意な浄化。とどめを刺すなら、昔ながらのやり方ですが、心臓に杭を打ち込むのが確実だと聞いたことがある」


「正解です。まあ、そもそも心臓に杭を打たれて死なない生き物はそうそういませんが」


エヴァンズはくすりと笑う。


「ついでに余談ですが、他にも東方の方では少々変わった伝承もありまして。例えば、家の前に米粒や豆粒を撒いておくと、吸血鬼はそれをすべて数え終えるまで中に入ってこられない……とかね」


「はあ? 米粒を数える?」


フローラは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「ええ。彼らには執着心や強迫観念が強い個体がいるらしく、目の前に散らばったものを数えずにはいられないのだとか。他にも、イワシの頭を柊の枝に刺して玄関に飾っておくと、吸血鬼除けになるという話もある場所もあるそうですよ」


「イワシに、柊……? なんだよその組み合わせ」


「イワシはニンニクと同じく、吸血鬼がその強烈な臭いを嫌うからだそうです。柊に関しては……葉の鋭い棘が、彼らの目に刺さるのを恐れるからだとか」


――……日常生活で、どうやったら柊が目に刺さるんだよ。そもそも米粒を一生懸命数えている吸血鬼なんて、想像したら妙に愛嬌があって変な気分になるじゃないか


フローラが内心で毒づいていると、エヴァンズの表情がわずかに引き締まった。


「では、人間が吸血鬼へと変じる『条件』については何か知っていますか?」


「…吸血鬼に血を吸われ、その傷が原因で死亡すること……つまり、一度命を落としていることが前提。かつ、蘇るための依代として肉体の損傷が少なく、五体満足であること。死後三日目に変異するとされてる。ただのケガで済んだ場合、吸血鬼にはならねえが、噛まれた傷口は重い感染症を引き起こしやすいので、一見小さな怪我に見えても早急な手当が必要だった筈だ」


「その通り。完璧な解答です」


エヴァンズは満足そうに頷いた。


「人間が吸血鬼化した場合、初期段階では生前の習慣に従って動きます。しかし、他者の血を啜り、変異が定着してくると、彼らは明確な『吸血鬼としての自我』を持ち始め、自らの意思で会話を交わすようになる。……そして、この段階で仕留めきれなかった場合、非常に厄介なことになります」


「そうなると、生前の力を遥かに凌駕した『怪力』や『再生能力』が定着し始める……」


「ええ。変異が本格的に定着してしまえば、もはや並の騎士では太刀打ちできません。腕利きの精鋭か、あるいは王都にしかいない『魔法使い』の到着を待たなければならなくなる。ですが、魔法使いを呼ぶには時間がかかりすぎる。……これが現在、大きな問題となっているのです」


エヴァンズの視線が、遠くの街並みへと向けられた。


「かつて『オーラムの悲劇』の後に起きた大討伐により、人型の吸血鬼は一度ほぼ根絶されました。以降、報告されるのは家畜が吸血鬼化したような下等な種ばかり。それらは獲物を食い荒らすため、襲われた人間の遺体は損傷が激しく、結果として新たな人型が生まれることも少なかったのです。まあ一人もいなかったとは言いませんが……」


「…」


エヴァンズの言葉が一段と低くなる。エヴァンズは目を伏せ、左手を見つめる。フローラも思わず口ごもる。騎士であったのなら、そういう事態に遭遇した事があるはずだ。エヴァンズはすぐに気を取り直した。


「…失礼しました。すぐに重い話になってしまいましたね。それで、ここ最近、秘匿されてはいるのですが、変異の初期段階ではあるものの、人型の吸血鬼が再び増え始めています。困ったことに、彼らはかつての常識……つまり『日光』を弱点としない個体ばかりなのです」


フローラの背筋に、冷たいものが走った。


「日光が、効かない……?」


「そうです。昼間も動ける吸血鬼。それはつまり、私たちの中に、彼らが平然と紛れ込めることを意味していますね。」



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