表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/61

第三十三話:最悪の買い出し


活気が溢れるグレンデル領の市場。


フローラは念願叶って買い出し係の座を射止めていた。ここまでは良かった。だが、そこには致命的な誤算があった。


快晴の空の下、フローラの心境だけは、隣を歩く女――アンナの存在によって、どす黒い雲に覆われていた。


「はぁ……。どうして私が、あんたなんかと肩を並べて歩かなきゃいけないのよ。縁起でもないわ」


籠を腕にかけたアンナが、これ見よがしに溜息を吐く。フローラは眉間のシワを深くし、苛立ちを抑え込むようにしつつも、つい言い返す。別にアンナという人間を毛嫌いしているわけではない。だが、自分に対して、いちいち喧嘩を売ってくるようなその態度が、かつての自分をチクチクと刺激するため、極力相手にしたくないのが本音だった。


「……貴方は専属メイドに昇格されたのでは? 奥様の傍を離れて、なぜこのような雑用に回っているのでしょうか」


「何、嫌味?……専属としての仕事なら、今できる分は終わらせたわよ。奥様の着替えのお手伝いも終わったし、ちょうど手が空いたのが私しかいなかったの。……ったく、買い出しなんて本来は下っ端の仕事なのに、なんで私が」


最悪の誤算――そう、それはアンナと買い出しに行くことになってしまった事である。


これではトーマスの甥であるロナルドの工房に寄ることも、ましてや塔の少女への贈り物を隠れて物色することも不可能に近い。


そしてこれはアンナをどこかで撒けば済むという話ではないのだ。


昨今の情勢下、屋敷の外に出るメイドは、常に不逞の輩や「帰還兵を吸血鬼だと疑う過激派」の標的になりやすい。そのため護身用のナイフや魔道具の携帯が義務付けられ、複数人で来た場合、単独行動は厳禁とされているのだ。ついでにどうしても単独行動での買い出しが必要であれば魔道具ではなくステルス系統の魔法薬の使用も認められたのだが、残念ながら現在それはない。


「迅速にすませましょう。私もですが、貴方も私と長くいたくはないでしょうし」


「当然よ。……ふん、それにしても、さっきから何をそんなに悩んだようにしてるの?もしかして、どこかでサボる気だったんじゃないでしょうね。あるいは……男でも作る気?」


アンナが意地の悪い笑みを浮かべ、フローラの顔を覗き込んできた。


「最近、男のもとに密かに通い詰めてメイド長を激怒させたメイドがいるって噂、あんたのことじゃないの?………いつかやると思ってたのよねぇ」


「……は?」


フローラは耳を疑った。


あまりに身に覚えのない話だ。


「……断じて違います。第一、その様な関連でメイド長に怒られた覚えもないですし…」


――この前怒られたのは、泥だらけの毛布を洗濯場にぶち込んだ件だ。それに通っているとしても塔であって、相手はお嬢さんだ。男なんてどこにもいねえ。そもそも仕事だしな。……いや、待てよ


脳裏に、偶に話しかけに行ってる庭師トーマスや、あの家庭教師エヴァンズの顔が浮かぶ。しかし、トーマスには愛妻がいるし、エヴァンズに至っては話しかけられた被害者(?)は自分の方だ。だが、ここは女の園だ。出会いに飢えた同僚たちが、ぽっと出の異性を王子様か何かと錯覚し、そこにフローラの様々行動が混ざって、妙な尾ひれがついたのかもしれない。


――怖っ。思わぬところで足を掬われる前に、身の振り方を考えねえといけねえな。


「な、なによ、急に身震いしちゃって。私の話聞いてる? 本当に気味が悪いわね」


「いえ……思い当たる節がないからこそ、根も葉もない噂が一人歩きすることの恐ろしさを実感しただけです。さあ、買い物を終わらせましょう。早くしないと、『あの二人は男と遊んでいたから遅くなった』なんて、それこそ事実無根の噂を立てられかねませんから」


「はあ!? そんなわけないでしょう! ちょっと、待ちなさいよ! まだ話は終わって――!」


フローラは背後で喚くアンナの言葉を聞こえないふりをし、大股で歩を進めた。ついてきてさえいればいい。


ロナルドの工房への訪問は、次の機会に回すしかない。今は一刻も早く屋敷へ帰ることこそが必要である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ