第二十六話:一番の座
フローラは、その後、持参した新しい毛布を何枚も丁寧に重ね、床の上に厚みのある層を作り上げた。一枚では石の硬さを逃がしきれないが、こうして重ねれば即席のクッションのような弾力が生まれる。
さすがにベッドを持ち込むのは物理的に不可能だが、これくらいなら知恵を使って工夫すればどうにでもなる。フローラは、「下に敷くのは可哀想」と渋る少女に対し、至極真面目な顔でこう説いた。
「いいか、お嬢さん。この毛布たちはな、『上に寝てもらうこと』が何よりの幸せなんだ。お前に踏まれ、抱かれ、その重みを感じることで初めて、自分たちの役割を果たせたと喜ぶ性質なんだよ」
――なんだか、毛布が変態みたいな説明になっちまったな。まあ、どうせ布に口はねえし、いいか。もう少し大きくなったら、ちゃんとしたの説明してやろう
「……そうなの? 毛布さん、踏まれて嬉しかったんだ……! じゃあ、たくさん踏んであげなきゃ……!」
少女は、白く柔らかくなった「寝床」を恐る恐る指で押し、その反発を確かめた。それから、フローラを見上げて、宝石のような瞳をキラキラと輝かせた。
「……ふかふか。メイ、すごいや。お母さんが読んでくれた絵本に出てくる魔法使いみたい。メイ、本当は魔法使いだったの?メイ、てことは、みんなに好かれてる?」
「……魔法じゃねえよ。これを作るのに必要なのは根性と、ほんの少しの知恵だ。」
「『こんじょう』? こんじょうのお別れが、魔法には必要なの?」
「違う、そっちの『今生』じゃねえ。あとこれは魔法じゃねえって言っただろ」
お嬢さんの髪が汚れている以上、この寝床もすぐに汚れるだろう。だが、今のフローラにはあの自動運搬機がある。交換の苦労など、この少女の嬉しそうな反応に比べれば安いものだ。
しかし、フローラは、楽しそうに新しい寝床へ体を横たえている少女を眺め、ふと悪戯心が芽生えた。少し意地悪な声をわざと出す。
「なあ、お嬢さん。さっき、私が『好きな子に意地悪するやつ』だと言ったな? だとしたら、こうして優しくしてやるのは、その逆だとは考えられないか?」
「ぎゃく……?」
少女は小さな頭で必死に考え、その「逆(=好きではない)」という意味を理解した瞬間、この世の終わりかというほど絶望的な表情を浮かべ、ぎゅっとフローラの服を掴んだ。
「……メイ、お嬢さんのこと、嫌いなの!? やだ、そんなの! お嬢さんがメイの事、そんなに好きじゃなくても、メイはお嬢さんのことを一番に好きでいて!」
フローラは思わず目を見開いた。あまりの言い草に呆れつつも、すぐに鼻で笑って即答した。
「いや、それは無理だな」
「……えっ」
悪いが、フローラの中で「一番」は、命を捧げた主であるセリーヌだ。人に順位をつける趣味はないが、少女にならって順位をつけるなら、敬愛するセリーヌ様になるに決まっている。その座が揺らぐことは万に一つもないだろう。
フローラが内心でそんなことを考えていると、少女はさらに衝撃を受けた顔をして、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。
「お、お嬢さんよりも上がいるなんてヤダ! お嬢さんが、一番じゃなきゃやだぁ!」
子供じみた独占欲のようだ。じたばたと抗議する少女を適当にあしらいながら、フローラは困ったように、けれど隠しきれない満足げな笑みを浮かべた。
「悪かったって。一番は無理だが、お嬢さんは……『特別枠』だからな」
「とくべつわく? 一番とどっちがすごいの?」
「どっちもすごいいが、特別枠ってのはなろうとしてなれるもんじゃねえ。選ばれたやつだけだ」
「そうなの! じゃあお嬢さん、とくべつわく!」
少女は途端に機嫌を直し、誇らしげに胸を張った。




