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第二十五話:メイ、振られる


フローラは次に塔に行った時、今度は石床の上に落ちていた布を拾い上げた。次の目的は洗濯である。しかし、埃と脂にまみれもはや元の色が判別できないその布を持ち上げたフローラを見て、少女は不思議そうに首を傾げた。


「んとね、それは寝るときにかけるものだよ。もうふさんだよ、メイ」


「これがなにか、わかんねえから持ちあげたわけじゃねえよ。……てか、『もうふさん』? あと、お嬢さんこれせめて下に敷けよ。体が痛いだろ」


「メイ、もうふさんを下じきにするのは、かわいそうなんだよ? それにね、石さんは温かいの」


「…………」


フローラは絶句した。この部屋に施された魔法で石床を温めているとはいえ、床が硬いことに変わりはない。そしてフローラは身体を痛めた前科がある。


「……。じゃあ、この『もうふさん』とはどれくらいの頻度で交換……いや、お別れしてんだ?」


「お別れなんてしたことないよ?」


「はあ? 一度も洗ってねえのかよ。……洗濯に持っていくぞ。というか、新しい替えのやつは誰も持ってこなかったのか」


――部屋もあれだけ汚かったし、ありえなくはねえな


しかし、少女は首を振る。


「えっとね、前の人が真っ白なやつ持ってきたの。でもしたに置いとくと色がついて白くなくなっちゃうから、窓のとこに頑張って掛けてたの。そしたら、お嬢さんの眼の前で、お外に吸い込まれていったの。」


「……吸い込まれたわけねえだろ。お嬢さん、絶対布を外側に多めで掛けてたから落ちたとかだろ。窓下ってことは、塔の後ろ側か……。そっちは後で回収するとして、まずはこいつだ。」


――エマ先輩緊張してたし、渡すだけはしてたけど、確認はちゃんとやってなかったやつだな


フローラがそんな事を思いつつも強引に毛布を回収しようとすると、少女は血相を変えて布の端を握りしめた。


「……引っ張らないで、メイ! 」


「洗って、それを綺麗にしたら、お前のとこに返してやるから。…こんなふうに洗わずにずっと使いっぱなしだと、汚れも落ちなくなるぞ」


「……そうなの? ……そ、それじゃあ、毛布さん。私とは『こんじょう』のお別れじゃないから安心してね。メイがそう言ってるから……」


少女は毛布に対し、まるで「メイという人は凄く冷たいけれど、仕方がないから、信じてあげなきゃいけないんだよね」と言い聞かせてるかのように語りかけ、別れを惜しむようにぎゅっと抱きしめた。フローラは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「誰に教えてもらったんだよ、『今生』なんて難しい言葉。……つーか、お別れ済んだんなら毛布から手を離せよ」


「むぅ……!」


少女は「むうっ」と頬を膨らませて毛布にしがみついた。小さな身体に全体重をかけ、精一杯の力で踏ん張っている。だが、力の差は歴然だ。フローラが軽く引くだけで、少女の体はずるずると引きずられていく。


そして勝てないと悟ったのか、少女の大きな瞳には、みるみるうちに涙が溜まり始めた。


「……っ!」


その「うるうる」とした顔の必死の抵抗に、フローラの心臓がまた嫌な音を立てる。泣かれるのは、何より調子が狂うのだ。


「……分かった! 一旦諦めてやるから!ほら、そんなに体重かけんな。後ろに転んだら危ねえだろ」


「ほんと!?」


「……ああ。ったく、今のさっきでコロッと態度を……」


フローラの前で、少女は得意げに胸を張った。


「……お嬢さん、まなんだの。メイ、お母さんに言いつけるって言ってもメイにはダメって。でも、お嬢さん、メイには弱点がある事をみつけたの!」


「……あ? 弱点だと?」


フローラが眉をひそめると、少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「お嬢さん、わかっちゃった!お嬢さんは、女の子。そしてお嬢さんが泣くと、メイはやさしくなる。前はパンをくれた!そう、つまり、メイは女性の涙に弱い!」


「…………」


フローラは一瞬呆気にとられた。しかしすぐに眉を潜める。


「……『女の涙に弱い』ってそんな訳ねえだろ」


「えっ? ……ハッ! じゃあ、お嬢さんが『特別』ってこと!? メイ、お嬢さんのこと大好きなんだね!」


少女は頬に両手をあてる。


「はぁ!? なんでそうなるんだよ!」


「女性みんなの涙に弱いんじゃないってことは、お嬢さんの事が好きだから、お嬢さんの涙にだけ、特別に弱いんでしょ? 『好きな女の涙にはよわくなる』?ってやつ!……でもね、それならお嬢さん、メイに謝るよ。お嬢さんの特別は、一番はお母さんで、二番は毛布さんで三番は石さんって決めてるから」


「……お前、言葉の意味、きちんとわかってねえだろ」


――なぜ勝手に私が振られたような形になってるんだ。というか、なぜ私は「毛布」や「石」に負けてるんだ。


絶対に恋愛のれの字もまだ知らない癖にませたことを言う少女に、フローラは釈然としない思いを抱えながら、少女の頬を軽くつねった。


「それも、お母様から教わったのか?というか、バカ正直に言ってよかったのか?…嘘泣きだったんなら容赦なく毛布取り上げるぞ」



「メイ、好きな子にわざと意地悪しちゃダメだよ! お嬢さんにかまってほしいからって、ダメ!お嬢さん、そんなのされても喜ばないよ!」


「……お前の母親は、本当にろくなこと教えねえな」


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