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隣町までドライブデート

朝靄の残る空気の中、闇ギルドの扉が音もなく開いた

開店……ではなく、早朝出発の護衛任務だった

「本当に来るとは」

ため息まじりに荷馬車の荷積みを確認していたシルが言う

「は?来るって言ったじゃん!外の仕事、見せてくれるって言ったでしょ!」

セリナはどすんとトランクを置いて、両手を腰に当てる


「ギルドの許可は出たけど見学だからな」

「経験積んで出世街道まっしぐらってやつよ!」

妙に気合の入った顔で笑ってみせるセリナに、シルは押された

ここのギルドは女性が強すぎる


-ギルドで使う武器は、なるべく足が付かないように隣町で作っている

その原材料を運ぶための不定期運搬任務だ


「今日は近場の街に往復して帰るだけだ――行こう」

荷馬車に飛び乗るセリナの姿に、手綱を握る商人が苦笑した

「いつもよりにぎやかだね、あんたのとこの見習いは」

「見習いじゃない受付嬢!」

「一応所属は事務員だろ」

小声で訂正しながら、シルも馬車の後ろに乗り込む


――


「うわー結構高い所も行く~」

途中のちょっとした山道

メモには「馬車の揺れで筆記困難」など的外れな事を真剣に書いている

「見学に集中してんなら、それでいいけど」

シルは背後や街道脇の気配に注意を払い続けていた


「シルってこういうの慣れてるんだよね?街の外に出るの怖くない?」

「慣れた――お前は?」

「ちょっと怖い……でも護衛とか居るとなんか頼もしいっていうか」

セリナは頬を赤くしてごまかすようにメモをした

「じゃあ、俺も見せられるよう頑張るよ」

「えっ?」

「闇ギルドの構成員として、お前が【頼もしい】って思える程度にはな」

一瞬セリナの鼓動が跳ね上がる

「な、なにそれ!急にかっこつけちゃって!」


――


任務は順調だった

荷を届け、受領の確認を取り、簡単な挨拶と情報交換を済ませる

ごく短い往復任務

「本当に来ただけだったね~隣街とも仕事してるって、なんか不思議な感じ~」

夕暮れの空には雲ひとつなく、穏やかな風が吹いていた

「静かすぎるぐらいだ、こういう日もあるか」


問題が起きたのは、中間地点に差し掛かった頃だった

通い慣れたはずの川に見慣れぬ光景が広がっていた

商人が馬車を止める

「おかしい、道を間違えてしまったかな?」

セリナが魔法で照らすと、濁流の向こうに折れた橋脚の影

「橋……なくなってる?」

「さっき通ったときは普通だったのに!」

「上流で降ったんだな『鉄砲水』か」


川幅は狭いが流れは激しい

「補修隊が来るまで数日は無理だ」

シルがあっさりと言いセリナは目を見開いた

「数日?それじゃ帰れないじゃん!」


――


「隣街に戻るしかないだろう、とりあえず今日は遅い――この辺りで泊まる」

「えっ?ここで?」

セリナが声を裏返すのも無理はない

周囲に宿などない

「ギルド側まで行ければ問題無かったが、こちら側は治安が良くない

 夜道を無理に動けば逆に危険だ」

「うそでしょ……ま、マスターに連絡しないと!」

セリナは慌ててトランクを開いて大型の通信用魔道具を起動した

シルはソレまで持ってきてたのかと肩をすくめた


「なんか混線してて通じないよ」

「鉄砲水で橋まで落ちてるんだ、近隣の街は大騒ぎだろう……

 マスターなら橋が落ちたって情報で逆算して動いてくれる」

「そういうもんなの?」

「そういうもん」

淡々と話すシルとは対照的にセリナは半泣きだった

まさか見学が野宿体験になるとは


「一緒なら大丈夫だよね?シル、そういうの、得意そうだし」

ぎこちなく微笑むセリナ

「護衛任務だ!だから落ち着け」

「うん」


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