セリナとシル
「……なんで私なんですか」
荷物リストを見て新人セリナは絶望した
同行者としてノエルに名前を呼ばれたのが――
「シルくんと一緒に!」
シルがこちらを無表情に見ている
(なんか苦手)
彼は無口で目が合うと刺されそうな闇がある
セリナはわかりやすく体が硬直した
「よ、よろしくお願いしますっ!」
「よろしく」
こうしてセリナとシルの初めての共同作業が始まった
――
市場は今日もにぎやかだ
野菜、魔道具、獣の素材
人混みの中、セリナはリストを見ながら一生懸命メモを取る
シルは何も言わずスタスタと歩き、リストも見ないで淡々と買っていく
「この【闇ギルド割】って何ですか?」
「知らない方が良い事もある」
「うっ……なんか怖い……」
やがて妙なものを見つけてセリナが止まる
「この【自己主張が強すぎる豆腐】って何ですか?」
「それはノエルお姉ち――ノエルが使った豆腐魔法を真似た物だ」
「やっぱりノエルさんのやつですよね!」
凄い人なんだとセリナは尊敬した
なんとなく、緊張がほどけてきた気がした
――
帰り道
「シルさんって、前からギルドに?」
「ああ――呼び方はシルで良い」
「ノエルさんとは仲良しなんですか?」
シルが少し照れながら答える
「騒がしいけど面倒見はいい」
「私もすごくお世話になってます」
セリナは微笑んだ
するとシルがほんの少し口元を緩めた
「君はここに向いてると思う」
「えっ……」
美少年の微笑み&お褒めはあまりに不意打ちだった
イケオジとは別の方向でご褒美だ
セリナの顔が赤くなる
「なにを急に」
「真面目で頭が良い あと――すぐ驚くのが面白い」
「やっぱりバカにしてるじゃないですかああああ!」
セリナの声が街中に響いた
――
ギルドに戻ったころにはセリナの手には荷物が山ほど
「腰が……」
でもその顔は晴れやかだった
「買い出し仕事大成功ですねっ!」
ノエルにそう言われセリナは苦笑しながら答えた
「このギルドって……常識が通じないだけで、意外とあたたかいんですね」
――
2回目
セリナはリストを片手に、シルと一緒に運搬カートを引いていた
「また一緒ですね」
「たまたまだ」
シルの返事はいつもどおりそっけない
セリナはもう慣れてきていた
「あの喫茶店行きません?疲れた時は糖分です」
「仕事中だ」
「ええー」
不意にシルが立ち止まる
何か違和感がある
「やっぱり喫茶店入りますかぁ?」
セリナがカートをUターンさせるが車輪が引っかかる
んっ
「最近この辺、地盤が不安定でデコボコなんですよねっ!」
セリナがカートを動かそうと、足で出っ張ったタイルを蹴る
突然、真下の路面が黒い穴のように歪む
「きゃ――っ!」
セリナがカートごと地面に吸い込まれた
「セリナ!」
シルが反射的に飛び込み2人は地下へ落ちた
――
「いたたたたぁ」
「無事か」
薄暗い地下通路
そこは廃棄された倉庫跡のようだった
不穏な気配と怪しげな魔道具が置いてある
どうやら古い結界魔道具が壊れて隠蔽魔法が解けたようだ
「えっなにこれ?なんか密輸の現場っぽい?」
「静かに」
シルがナイフを抜く
すぐ先で男たちの声が聞こえてきた
「おい誰か落ちてきたぞ!」
「冒険者の連中か?消すしかねえな!」
「逃げま――」
「下がってろ」
言い終わる前にシルはセリナの目の前に立っていた
影の中を自由に動くシル
魔法も使わずナイフがきらめくと1人1人倒れて行く
「つよっ!」
近くにいた敵の1人が魔法陣を展開しシルの背後から狙いを定める
「シル!」
反射的にセリナはその場にあった木箱をぶつけた
「ぐはっ!」
思い切り当たり敵は倒れた
「思ったより重かった……手が震えてる……」
「火事場のクソ力か」
「褒めなさいよぉ!」
怖いと思ってたのに……守ってくれてすごく安心した
なんだろう
(あれっ?ちょっとカッコよく見えて来たかも)
――
やがて騎士団が現れて男達を連行していく
手柄にされるのは癪だが、こんな所で目立つ訳にはいかない
既にシル達は立ち去った後だ
「意外と肝が据わってた」
「え、今さら褒めても遅いですよ!?」
セリナは照れくさそうに笑いシルの肩を叩く
ギルドの掲示板には
【功績報告】
新人事務員セリナ 密輸団壊滅
本人コメント:「もう外には行きたくないです」




