僕は森を守る、君と共に 〜小さな妖精との出会いによって僕は動き出す〜
僕の名前は佑樹。もうすぐ卒業を迎える小学6年生。3月に入ってから卒業制作のオルゴール作りや、卒業文集、自分史の作成で毎日疲れている。
そんな僕は家に帰る前にこっそり学校の裏山に行くようになった。静かで、遠くから少年団のコーチの掛け声が微かに聞こえる。ここでひと休みすると疲れが癒やされる気がするんだ。
ある日、いつものように坂を登って木々の間を歩いていると、聞き慣れない小さな笑い声が耳に飛び込んできた。
「誰?」
僕は辺りを見回したが、誰もいない。すると、目の前の茂みから小さな光が飛び出し、僕の前で止まった。それは、手のひらサイズの女の子だった。透き通った羽とキラキラした緑色の瞳を持つ、妖精のような存在だ。
「ふふっ……君はいつもここでウロウロしているよね? やっと会えた!」
彼女はふわふわ浮かびながら僕を見上げる。何だこれは……?
「僕のことを見てたの?」
「もちろん。あたしはリリィ。この裏山の守り手。人間達が乱暴しないか見張ってるの」
僕は流暢に話すリリィに驚いたが、その小さい姿で見張ってるという言い方に可愛らしさを感じる。思わずクスッと笑った。
「僕は佑樹。ここでゆっくりするのが好きなんだ。卒業したらもう来れないと思うから」
「えっ……もう来れないってどういうこと?」
リリィが分かっていなさそうだったので、小学校を卒業する話を説明した。
「そっか。ゆうくんが来るのもあと少しなんだね……」
僕を「ゆうくん」と呼ぶリリィは寂しそうにこちらを見る。そして僕の手のひらに乗って上目遣いで話し出す。
「じゃあ……あたしから君にお願いがあるの」
その日から、僕とリリィの奇妙な友情が始まった。リリィは森の異変を教えてくれ、森や山などの自然を守って欲しいそうだ。僕は学校でのSDGsの授業を思い出していた。17の目標のうちの15番目、「陸の豊かさも守ろう」というものがある。森林の持続可能な管理を進めて、多様な生物が生きられる生態系を守るというものだ。
「僕、SDGsの学校新聞を作ったことがあるんだ。だから協力したい」
「嬉しい! ゆうくん!」
にっこりと笑うリリィを見て僕はドキっとした。小さいのにふいに見せる表情が女の子っぽくて可愛い。僕は裏山や学校周りのゴミを拾い、少しでも緑を守ろうと思いながら活動していた。
今日も放課後にゴミ拾いをしていると、リリィが深刻な顔つきで言った。
「ゆうくん、この森に変な気配がする……人間の企みが見えるの」
「えっ……?」
その森は、学校から僕の家の反対方向に進んだ場所にあるものだった。見た感じ何もなさそうだが。
「ちょっと調べてみるよ」と言い、家に帰ってからタブレットで検索をかける。うーん……制限つきモードだからわからない。
仕方ないので母親に聞いてみた。調べてもらったところ、その森は宅地開発で一部が切り開かれる計画が進んでいるとのこと。
「ねぇ……どうにかならないの?」
「そうね、もう計画が進んでそうだからね。このページ、見てご覧なさい」
母にタブレットを見せてもらって僕は画面を凝視する。施工業者のホームページだ。そこにこのような文章を見つけた。
「SDGsの17の目標のうち『11.住み続けられるまちづくりを』を達成するため、土地開発を通じてより良い環境を。さらに『15. 陸の豊かさを守ろう』を達成するため、土地開発に緑を取り入れて環境保護へ」
これは……SDGsの目標は17もあるから、森の保護のためには他の目標のことも考えなければならないのか。今回の場合は住みやすい場所を作るために宅地開発をするが、ある程度森林は残すと書いてある。
翌日の放課後に僕は学校の裏山へ行き、リリィにこのことを伝えた。
「なるほど……人間の住みやすい場所の確保も必要なのね。環境との両立って難しそう」
リリィがうーんと考えている。その姿も何だか可愛い。
「この計画は止められないけど……きっとこの業者さんなら環境のことも考えてくれると思うんだ」
「うん……わかった。あたしの力で風を操って、その森の木々を元気にさせるよ。少しでも綺麗な森だと思ってもらえたら……多めに残してくれるかもしれないし」
リリィが納得してくれた。良かった。
そして僕は小学校を卒業した。中学生になり少しした頃にあの森の宅地開発が進められた。僕は業者さんに勇気を出して話をした。少しでも森の木々を残して欲しいと。
「君は立派だね。大丈夫だ、近隣住民にも言われているからね。最近木々が生き生きしているような気がするんだ」
木が生き生きとしているのは春のせいだけではない。きっとリリィの力だ。
あれから約1年半が経過した。僕はあの森の場所へ行く。そこにはマンションが建っており、木々が並ぶ小さな公園もあった。花壇には季節の花が咲いていて華やかだ。丁度良い具合に緑があって住み心地も良さそう。
中学校に通ってからは忙しくてリリィには会えていない。この景色を見てリリィはどう思うのだろうか。
その時、穏やかな風がふわりと僕の周りを包み、声が聞こえた。
「ありがとう、ゆうくん」
終わり
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