相羽隊
正直、剣持にとっても嬉しい提案だった。こんな未知数な力をそこらへんで放置するよりかはある程度知識を持った組織にかくまってもらったほうがいいだろう、ただ…
「でもこの提案って僕を監視するためでもありますよね?そこにいる弦月さんも僕の能力は特殊だって言ってたんで」
社がバッと弦月の方を向いたが弦月は音もなく部屋から出ていたようでそこには誰もいなかった。
「あいつまた余計な事喋って…まー隠していても仕方がないから言うんだが、神に憑依された人間というケースは今まで聞いたことがないんだ。だから監視といえば監視ということになるかもな」
やっぱりかと内心思ったが社はさらに続けた。
「でも俺がしたこの提案は監視の目的なんておまけ程度なんだ、本題は君を我々の保護下におけるということだ」
「保護…?」
「そうだ、敵対組織のGAMERSはさっきも言った通り神聖な場所や特殊な人間を狙って襲っているといっただろ?」
「…!」
剣持は今自分がどんな状況に置かれているかを理解して頭を抱えた。
「そう、君は敵に発見され次第真っ先に襲撃の対象になる人物なんだ。たださっきも言った通り我々の保護下の元で生活できれば安全性はグッと上がるだろう。もちろん、君が組織に入らないという選択をしても君を守るという選択肢には変わりはないけどな」
その言葉でさらに悩ましくなったのかだんだん眉間にしわが寄っていく剣持。
「とりあえずあなた達の言い分は分かりました、ただ一つ質問なんですけど所属後って学校とかも普通に通えるんですかね?」
「それはもちろんだよ!今うちに所属してる大半はうち一筋だけど普通の生活を送る学生も社会人も所属してたりするからな」
「それが聞けて安心しました」
――これでアキ君と天宮…ちがうちがう!学校のやつらと会えなくなったり、僕の普通の生活がなくなるということではないんだな。
剣持は立ち上がって目の前でニコニコしている社に手を差し出した。
「わかりました、あなたの提案を受けます」
「本当か!?いやうれしいね~君学生だし正直断られるの覚悟してたからね」
社も手を握り返して強めにブンブンと振った。
「でも、僕は所属してなにをすればいいんですか?戦闘とかはド素人ですしあまり役にたてる気がしないんですけど」
それを聞いた社は手を離して大げさに腰に手をやると、
「問題ない!うちは一定の人数が隊ごとに分かれて業務をしているんだ。業務も戦闘だけじゃなくて調査だったりパトロールだったりあるからね君に合うことをすればいいと思うよ」
確かにそれであったら何かと教えてもらえるだろうし負担は減るだろう。ただ…
「隊のメンバーが気になるだろ?実はこの後君に紹介するかもしれないと思ってそいつらを訓練室に集合させているんだよ」
なんと用意のいいことだろう、さっき断られる覚悟をしていたといっていたのは大嘘なんだろう。
「それじゃあ向かうか」
剣持は薄暗い部屋から出ると外との明るさのギャップで目を細めた。
しかし、連れてこられた時にはあまり見れなかったが改めて見るとかなりでかい施設だということが分かった。
広さ的には大きめの学校の敷地と同じくらいのサイズ感だろうか、様々な用途で使用されているであろう部屋も多数確認できていて社によると実際ここで暮らしている人も少なくはないそうだ。
「ウチは広いから最初のうちは迷子になることは覚悟だな。まあ困ったときはそこら辺にいるやつに話しかけてみるといい、コミュニケーションが難しやつもいるがみんな優しいやつらだ」
前を先導する社が歩きながらそう言った。
「ほら、ちょうどあそこにいるやつらとか...あ!」
少し驚いている社の視線の先を見ると今日出会った三人の人達、長尾景、甲斐田晴、弦月藤士郎そしてその周りをぴょんぴょんと飛び回っている青髪の女性がいた。
それを見た社は一瞬固まったが少し首を鳴らすと静かにその集団に近づいた。
「おい、甲斐田...俺は訓練場で待っとけよと相羽に伝えろと言ったはずだが?」
社の存在に気づいていなかったのか四人は悲鳴をあげながらそれぞれ弁解を始めた。
「いや~違うんすよ、社さん!ういは隊長が新人の子を迎えに行くって聞かないから!」
「ち、違うよ?社さん、元はと言えば弦月が新人の子が来たって言い始めたから――」
「でも一番最初に行こうって言い始めたのは長尾だよね?」
「は~?最終的に俺は止める側になったから悪いのはういはろ隊長で――」
と言いかけたところで相羽の全力右ストレートが長尾の頬にヒットしてそのまま思いっきり壁まで吹っ飛んでいった。
「長尾ぉぉぉーーー!!!」
コントみたいな勢いで長尾の元へ飛んでいく甲斐田を大爆笑しながら見ている弦月。
――なんなんだこの集団は。
剣持は内心で呆れながらも様子を見ていると。
「呆れているところですまないが剣持君、実は君が入る予定の隊がこの女の子相羽ういは率いる相羽隊なんだ」
「え!?」
驚きを隠せず声に出してしまいすぐに手で口を覆う剣持だったがそんなことも気にも留めず相羽は手に腰をあてて話始めた。
「剣持とう…や君だっけ?ういはろ~どうも初めまして!私は相羽ういはって言います。現役でアイドルやってます!これからよろしくね!」
「う、ういはろ?」
「ああ、それは気にしないでくれ。元気がいいだろ?実はな、この子はこう見えてフィジカルお化けなんだ」
――いや、こう見えてもなにもさっきのパンチで十分わかりますよ。
剣持はハハハと乾いた笑いしかでなかった。
「も~失礼だな社さんは。ずっと言ってるけどこの力は能力ありきだしさっきのもたまたまいいところに当たっただけなだから!」
「アア、ソウダナ」
お手本のような社の棒読みを聞いて剣持はこの人には逆らわないようにしようと心に決めている間にもまだ後ろの三人組は騒いだままだった。