ANYCOLAR
剣持は今、とある部屋でカツ丼を食べていた。静寂に包まれたこの部屋には食器のこすれる金属音だけが鳴り響いていた。
この部屋には机が一つと向き合うように置かれた二つの椅子、全体的に部屋は薄暗いのに眩しいくらいに光っている机に置かれたライト。
――これじゃあまるで…
「まるで取調室って思った?」
なにか表情にでていたのだろう、部屋の隅にいる長髪・薄紫色の髪の喋りだすまで男とわからないほど中性的な顔立ちの人が声をかけてきた。
「い、いやそんなことないですよ…」
「…」
そしてまた静寂が続く。
――どうしてこんなことになったんだ…
話は遡ること数分前、神社で出会った二人組に車に乗せられた剣持はここ「ANYCOLARの本拠地」とかいうよくわからない場所に連れてこられてこの部屋にぶち込まれたと思ったら「上司を読んでくるから」と部屋を出ていったきり数分は帰ってこず、今この状況なのである。
とりあえず、平静を取り戻すために無心でカツ丼を食べていると薄紫髪の人が唐突に口を開いた。
「あともうすぐで君と話す人が来るみたいだから先に少しだけ自己紹介をと思って、どうも弦月藤士郎です」
「ン――ど、どうも剣持刀也です。」
いきなり声をかけられた剣持は急いで食べていたものをお見込んで自己紹介をした。
「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。ただ聞いたところによると君の力は大分特殊よりらしいからね、そういうのの扱いを決めているのがうちの組織であり――」
弦月がそう言いかけた時扉がガチャリと開いた。
「俺の仕事でもある」
そう言いながら会社員のような風貌の人物が入ってきた。
「君が剣持君だね?遅れてすまない社築だ、よろしく。」
にこにこしながら手を差し出してきたが何か怖さを帯びた雰囲気がある人だ。
「社さん、どうも剣持刀也です」
手を握り返したとき脳内で伏見の声が響き渡った。
――刀也さん!こいつこっちの能力とかめっちゃのぞき見してきてるっすよ!
伏見の言う通り、確かに社のこちらを見る目は何かを観察している眼だ。
「ん?あれ、俺の能力が地味に阻害される感じかこれ。さすがは神の力だな」
「能力?」
「ああ、とりあえず気にしないでくれよ。能力の話も後でするがまずは紹介しよう、ここがうちの組織『ANYCOLAR』だ」
『ANYCOLAR』――聞いたことのある組織名だ。何度ニュースになっているのを見かけたことがあるのだが、確か――。
「お、聞き覚えのあるって顔だな。そううちの組織は警察でも解決の難しい特殊な事件のみを任されているいわば警察の下請けみたいな組織なんだ」
冗談だと笑いながら対面の椅子に腰かける社はさらに話を続けた。
「実際はうちの組織は五年前突如現れたとある化け物ととある組織に対抗するために作られた組織なんだ。それが『クヲン』と『GAMERS』だ。そしてやつらが警察にも手を負えない事件を繰り返し起こしているんだ」
最近知った単語とまた新しい単語が出てきて椅子に座り直してしっかり聞く体勢をとる剣持。
「そしてこれがやっかいなことにGAMERASのやつらはなぜか意思を持たないはずのクヲンを操って事件を起こすんだよ」
「クヲンを操る?」
「そうだ、理由や目的はわからないがやつらは度々神聖な場所や特殊な人間をクヲンに襲わせているんだ」
社は大きなため息をついた。
「だからうちも能力者などを集結させてクヲンが発見されれば退治しにいきGAMERSに動きがあればそれに対処する、そんなことをやってる組織なんだ。なんとなくは分かってくれたか?」
「…はい」
絶対にまだ何かあるんだろうが突っ込まずにひとまず社の話を聞くことにした。
「そしてその能力者の能力こそが戦いの鍵になっていて、例えばこの俺の『分析』は自分の視界に相手の全体像を5秒ほど収めるとその相手の能力の詳細や身体能力がなどがわかるようになる能力だ」
――なるほど、さっき観察されてる気がしたのはそれか。
納得した剣持が改めて社の顔を見ると少しにやけている様子だった。
「フフッ、ちなみにさっき君の能力を見ようとしたんだが能力を持っているってことしかわからなかったよ。こんなのは初めてだ」
「え、僕は能力を持っているんですか?神の力とかではなく?」
寝耳に水といった様子の剣持に頷く。
「俺が見た限りだと憑依した神様ともう一つ何かしらの能力はあったけどな」
そう言われて剣持は自分の手を見つめた。
「能力っていうのは自分に対して何か衝撃的なことが起こったり感情がものすごく動いたりと人によって入手条件は違うっぽいし、その内勝手にどう扱う能力なのかっていうのも分かっていくものだから心配は無用だ」
社は心情を察したのか優しいアドバイスをしたと思っていたらいきなり椅子から立ち上がり剣持の前に立ちふさがった。
「そんな剣持君に提案だ。君もANYCOLARに入らないか?」
なんとなくここに連れてこられた時点で察していた剣持だったが、いざ言葉にされると胸がざわめき始めた。