授かりし力
「伏見!あれは何だ!!」
剣持が焦るのも無理はない、初めて見るナニカは全長は二メートル越えの大きさとそれさえも薄れて見えるほど異形さが目立つ化け物だった。
「あれは…巷で『クヲン』と呼ばれている化け物です」
「クヲン…?」
聞いたことのない名前に眉をひそめる剣持の横で伏見が地面に手を置き何かを唱え始める。
「な、なにやっるんだ?」
「結界を張っています、時間稼ぎになってくれればいいんすけど…」
伏見が手を置いた地面から神社を覆う膜みたいなものが生じた、するとクヲンはその結界を殴り始めた。あくまでもこの神社が標的らしい。
最初はガンッガンッという結界を叩くような音が聞こえていたが数秒もたたないうちに鈍い音に変わり始めた。
「ダメっすね、結界じゃ止まらないっす」
「おい、なんでそんなに落ち着いてられるんだ!いや、落ち着いてられるよな?神様だもんな!?じゃあ任せていいかな?」
「いや~お恥ずかしいことに実体化してる俺が結界張ったことで、また神の力が底をつきそうです」
「嘘だろ?どうすんだよ!!」
剣持が焦って普段の冷静さのかけらも見えなくなっている横で伏見は覚悟を決めたように言った。
「最終手段を決行します」
そういうと伏見は剣持に近づくいて背中に手を添え始めた。
「ちょ、こんな状況で何してんの!?」
「こんな状況だからですよ!もう、じっとしておいてください」
こうしている間にもピキピキと神社の周りの膜のようなものにヒビが入っていき今にも割れる勢いだった。
「お、おい!何かやるなら早くしてくれよ!?」
「あれーこれでいけるはずなんすけどね?……もういっそのこと。おりゃ!!」
その伏見の声とともに辺りが光に包まれた。バリンと結界が壊れる音とともに二匹の化け物『クヲン』達が恐ろしい勢いで神社の境内に入ってきた瞬間――。
そのうちの一匹が真っ二つの状態でその場に倒れ、灰となって消えたのだ。
「――まじかよ。これただの竹刀なんだけど…」
斬ったのは剣持の持っていたただの竹刀だった。そしてそんな驚愕している剣持と、
――マジすか…これマジか!!
伏見は剣持の中で驚愕を越して絶叫した。
そう伏見は最終手段として剣持に神の力を与えることに成功していたのだった。ただ、一つの誤算は理由は分からないが自分の一部の力を与えるつもりが、剣持の中に霊体ごと入るという形で憑依してしまったのだ。
「え、なんだこれどうなってるんだ?」
剣持は脳内から響く伏見の声に顔をしかめながらも現状把握に努めた。
――あ、ああ!大丈夫っす!刀也さんは気にしないでください!
そう言いつつも伏見は内心喜んでいた。
――最初はどうなるかと思ったけど、これならこれで神の力も使わなくて済むし何より刀也さんと一緒にいれるんだからアリかもしれない…
そう心の中で勝手に納得すると伏見は剣持の全力応援を始めた。
――刀也さん!がんばってそいつ早くやっちゃてください!
「簡単に言ってくれるな…」
脳内に響く声には慣れないのか少し頭の方を気にしながら竹刀を握り直した。
「ウオォォーー!」
という咆哮とともに襲い掛かってくるクヲンに対しまずは軽いステップで冷静に避けながら現状を整理した。
――今、伏見の力を借りてるからなのか体も軽くてさっきまでの恐怖もない。ただ相手の攻撃を食らったらひとたまりもないことは重々承知、油断はできない。
――そこっす!今、今相手がら空きっすよ!
脳内からする伏見のどうでもいい報告を聞き流してクヲンを十分に観察した。
――よく見たら右半身に異形が固まっているせいで重心が偏ってるな…なら。
変わらずに剣持目掛けて突進してくるクヲンをまずは右に大げさに避けた、するとそれを追わんとばかりに腕だけをこちら側に伸ばしてくるクヲン。だがその機を見逃さなかった剣持は瞬時にクヲンの懐に入るとその足を薙ぎ払った
バーン!案の定クヲンはバランスを崩し倒れた。
「じゃあな、デカ物」
剣持はその背中目掛けてすべての力をこめて斬りつけた。