剣持刀也の日常2
「刀也ーー!!」
授業が終ったのも束の間、物凄い勢いでドアを開けて教室に入ってきたやつがいた。
「とーうや!迎えに来たぞーー!!」
そいつは教室に入ると剣持目掛けて一直線に飛んできた。
「あのな明那、何度も言ってるように上級生の教室に大声出してそんなずかずか入ってくるのもおかしいし僕は先輩だぞ!!」
そういうと三枝はてへへというように赤いメッシュが目立つ髪をかきながらベロを出してみせた。
三枝明那は剣持よりも一個下の高校一年生なのだが剣道部に入部してきて少し仲良くなってからというもの懐かれてしまって最近では剣持のことを先輩として見てないこの態度である。
「で、なんの用だ?明那がこっちに来るのなんか愛園さんに会うくらいしか――」
「あ、あ、愛園先輩は関係ないでしょ!」
明らかに動揺した態度で反応する三枝。愛園愛美、彼女は学校の誰もが認める高嶺の花的存在。
ちらっと愛園さんの方を見てみるとこちらに手を振っているのが見えた。おそらく三枝も視界の端に映ったのだろうさらに顔が真っ赤になっていって――。
「って!まじで違うから!!天宮とアキくんに放課後喫茶店にでも行こうって誘われたから――」
「詳しく聞かせてもらおうか」
ガタっと椅子から立ち上がって三枝の肩を力強く掴んだ。
天宮心と鈴谷アキもまた後輩なのだが剣持刀也にとってその名が聞こえるだけで何よりの優先事項になってしまうのだ。
さすがの明那も呆れながら掴まれた手を振り払って続けた。
「刀也ならそうくると思ったわ。んで今日の放課後なんだけど」
「き、今日!?」
「え?今日だけどなんかあるの?」
「くぅ…」
このあとにある用事と絶対的ご褒美を頭の中で比べたのか刀也は苦渋の表情を見せた。
「おいおい嘘でしょ、あみゃみゃとアキ君の名前がでて剣持さんが渋ることがあるんですか?」
驚いた表情を浮かべながら夕陽が隣の席から話に割り込んできた。
「ね?これ絶対なんか裏ありますよね?リリちゃん先輩」
「こ~れなんかあります」
「うっせーわ!ほっとけよ僕には僕なりの用事があるんだから」
そう言って口を尖らせながら帰りの支度を始める剣持に向かってハイハイというように手をひらひらさせてから席を立った。
「じゃ、剣持さんが行かないならわたし連れてってよ」
「え!じゃあむぎも行く~」
夕陽の言葉にいち早く反応した家長が夕陽に駆け寄った。こうしていつもの面々が集まっていくなかで剣持が歯をギリギリ言わせながら鋭い視線を飛ばした。
「おい!お前たち!!あの二人に何かあったらただじゃおかないからな!!」
剣持はまるで命のかかってる約束ごとのように三人に釘をさすも、
「なんでだよ…ただ喫茶店行くだけなのに」
「そーだそーだ!来ない人は黙ってろ~」
女子二人からの猛烈なブーイングを受けて剣持は持っていた荷物を力強く握って教室のドアまで駆け足で移動した。
「チッ!じゃあ僕は行かなきゃいけないから!!ほんっとにただじゃおかないか――」
「「「しつこい!!!」」」
三人に怒鳴られた剣持は少し縮こまりながら教室をあとにするのだった。