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【旧作】蒼海戦域 ヴァルハラ・ホライズン ~追放された元令嬢は、開拓者クランマスターとして成り上がるようです~  作者: 不乱慈
第四章 オクシリス防衛編

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第二十六話:地獄の花

 インスマス号は展開したカタパルトをオクシリスに向け、静止した。


「機関停止、船位固定!」


「GSカタパルトの展開完了。進路クリアです」


「自律砲台『ゴリアテ』の起動を確認──」


 指示と報告が飛び交う艦橋で、セレジアは険しい顔つきのまま言った。


「くれぐれも近づきすぎないで頂戴。インスマスは案外、脆いんですのよ」


「──了解!」


 モニター越しのゴリアテの姿を見て、セレジアは些か怖気(おぞけ)を覚えた。

 きっと、地獄に植物が生えていたのなら、こんな感じの姿だろう。


 オクシリスの南港湾部では、外敵の存在を察知したゴリアテが覚醒し、その異形を立ち上がらせていた。まだ有効射程外ではあるが、その威圧感は半端ではない。

 長い首の先の砲身が、灼熱化したプラズマ粒子のカタマリを集束させている。


 あれに当たればGSだろうと採掘艦だろうと──轟沈は免れない。


 セレジアはインカムから伸びるマイクを口元に寄せた。


「ナイア、準備はよろしくって?」


『いつでもオーケー!』


 明るい声が返答する。彼女の《ダブル・ダウナー》は、インスマス号の甲板に固定された状態で"ハリーフ" グレネードランチャーの狙撃体制を整えていた。


 だが、それだけではない。彼女の機体の隣には、同様の装備をした《ライカントロピー》の姿もあった。腹ばい状態の機体のコクピットで、ジョニーがぼやく。


『俺に吹っ飛ばされても恨むなよ、青いの』


『──お前のことは、信じている』


『けっ。勝手に言ってろよ、気色悪いな』


 言いながらジョニーは、射撃管制装置の設定を再確認した。


 ……問題ない。《ブルー・ブッチャー》に搭載されたカティアとのデータリンクも正常に機能している。これなら、寸分違わず目標地点に撃ち込めるはずだ。


『B・B。最後は貴方ですわよ。聞くまでもないでしょうけれど、爆風の中を死ぬ気で駆け抜ける準備は出来ていまして?』


 発進カタパルトに主脚を接続した《ブルー・ブッチャー》のコクピットで、彼は二本の操縦グリップを握り直した。正面のメインコンソールに光が灯る。


 胸部装甲を兼ねた前部ハッチが閉鎖すると、B・Bは慣れた動きでグリップとペダルを交互にガチャガチャ触り、テンションの調整を確認した。


 操作性には何の違和感もない。マハルの仕事は流石の出来栄えだった。


 B・Bは集音マイクに応える。


「──問題ない。いつでも出撃可能だ」


『よろしい。では、手はず通りに《ブルー・ブッチャー》のカタパルト射出と同時に、最初の砲撃をお願い。砲撃地点はカティアがリアルタイムで計算しますわ』


 砲撃地点。それは《ブルー・ブッチャー》の進路前方、およそ10メートル前だ。まずはインスマス号甲板の二機が同時に砲撃を行い、海面爆発を引き起こす。

 ここで生じた大量の水飛沫が《ブルー・ブッチャー》を覆い隠せば……。


 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()


『ミッション開始ですわ』


 セレジアの淡々とした号令と共に、B・Bはペダルを踏みこんだ。

 無骨なカタパルトが軋んで、レールから機体が超高速で撃ち出される。


 同時に凄まじい砲声が鳴った。ナイアとジョニーの二人による砲撃だ。


 B・Bは構わずペダルを踏み続けて、機体をさらに加速させた。

 メインモニターの中では、海面の景色が遥か後方へと流れていく。

 遠くそびえるゴリアテの異形が、みるみる内に大きくなった。


『主殿、間もなくレーザーの射程範囲じゃ!』


 カティアの叫びと共に、機体のアラートが鳴る。

 ゴリアテからの照準警報ではない。

 後方からの飛来物──グレネード砲弾の接近を知らせるものだった。


『──当たるなよ、青いのッ!』


 二発の砲弾は《ブルー・ブッチャー》の頭上を通り過ぎ、眼と鼻の先で爆発を引き起こす。大きな水柱がのぼり、大量の飛沫が機体の装甲を濡らした。


『来るぞ、主殿!』


 水のカーテンの向こうで、青白い閃光の奔流がほとばしる。

 遂にゴリアテは、光の矢を放った──。


『B・B!』


「────問題ない」


 青白いガスの中から《ブルー・ブッチャー》が飛び出し、再加速する。

 装甲の表面にいくつかの焦げ跡こそ見えるが、大きな損傷はない。


『クール! セレジアさんの言った通りだ』


『喜んでる暇はなくってよ! 次弾発射まで10秒前ですわ!』


『けっ、これをあと二回か。集中力が持たねーよ……』


 インスマス号甲板の上の二機が、再び“ハリーフ”を構える。


 便宜上「レーザー砲」と呼ばれているものの、ゴリアテは厳密には光学兵器ではない。本来、レーザーとは光の波長に基づく現象であるが、ゴリアテが行っているのは微細に粒子化したアビサル・クォーツの電離分解によるプラズマの発生だ。


 チャンバー内でプラズマ化したアビサル・クォーツは、電離作用によって瞬時に灼熱化し、音叉のような二又の形をした砲身の間へと送られて、集束される。

 この灼熱化したプラズマを、電磁砲(レールガン)の原理で打ち出すのがゴリアテだった。


 砲撃は光速ではないし、その弾も、防御不能な光そのものではない。

 であれば──、着弾より早く障壁を作ってしまえばいい。


 大量の水飛沫を即席の「爆発反応装甲」として使う。

 それが、セレジアの考え出したプランだった。


 灼熱化したプラズマが水飛沫に連続して接触することで、急激な加熱が発生し、ここで「水蒸気爆発」と呼ばれる現象が発生する。爆発がプラズマのカタマリを吹き飛ばすことで、熱量の著しい散逸(さんいつ)を引き起こしたのだった。

 これによって《ブルー・ブッチャー》の損傷は、いくらか軽微なものとなる。


『第二射、来るぞい!』


 再び、グレネード砲弾が生み出した無数の水柱が視界を塞ぐ。

 《ブルー・ブッチャー》は身をかがめた。

 連鎖する爆発が、凄まじい衝撃でフレームを軋ませた。


「──くっ……」


『まだ生きてんのか!?』


『兄貴、言い方!』


 機体のダメージ・ステータスのモニターが真っ赤だ。直撃は免れているとはいえ、連鎖する爆発の中を突き進んでいるのだから、やむを得ない。

 爆風がフレームを、アクチュエータを著しく損傷させている。装甲でカットしきれなかった熱もまた、B・Bの肌をチリチリと焼いた。ひどい耳鳴りもする。


 それでも彼は、ペダルを踏み続けた。


『ラストじゃ、主殿ッ!』


『えっ……──ジャムった!』


 インカムから、ナイアの怒声が耳を刺す。


 ジャム──装弾不良。弾か銃火器のどちらかに不具合が生じて、正常に給弾や装填が行われない故障。《ダブル・ダウナー》の“ハリーフ”は使えなくなった。


『なんじゃと!?』


「構わない、ジョニー! やれ!」


『クソッ……俺を恨むなよ、()()ッ!』


 《ライカントロピー》がトリガーを引いた。榴弾軌道を描いて空を舞ったグレネード砲弾が《ブルー・ブッチャー》の左前方向に着弾する。B・Bは怒涛のペダル捌きを見せ、機体を即座に傾斜させた。まるで“水切り石”のように機体が跳ねる。


『おわあぁーーっ!』


「くっ……がぁっ……!」


 きりもみ回転する視界の中で、B・Bはどうにか海面を捉え、機体の主脚を着水させた。その位置は水飛沫の真後ろ。一瞬、躊躇う。近すぎたか──。


 轟音と閃光。

 そして、音が消失する。


 意識が揺らいだ。視界が曖昧になる。B・Bは肉体の感覚だけを頼りに、ペダルを踏み、操縦グリップを手繰った。かすんだ目を開き、モニターを注視する。


 ──見えた。


 地獄の花のようなゴリアテが、トドメを刺そうと首をもたげている。

 武装展開、モーターナイフ“藍銅”をアクティベート。右腕に保持。


「……はァッ!」


 裂帛の叫びと共に《ブルー・ブッチャー》は“藍銅”を鋭く投げ放った。

 ゴリアテの砲身を形成する二本のバーの隙間に、それは深々と突き刺さる。


 チャージされていたプラズマが、異物と干渉して炸裂した。

 砲身の裂けたゴリアテは、のたうち回るようにボディをくねらせる。


 苦しみぬいた後、やがて命を持たない機械は()()()

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― 新着の感想 ―
BBに負担の大きい作戦ですね。(それだけ腕が信用されてるのでしょう。) しかし、やはり投擲が向いてる機体なんでしょうか? 難しすぎてBBくらいしか当てれないとか?今回も至近距離から投げた? ゲーム…
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