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【旧作】蒼海戦域 ヴァルハラ・ホライズン ~追放された元令嬢は、開拓者クランマスターとして成り上がるようです~  作者: 不乱慈
第三章 決闘編

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第二十四話:女たち

 ──“決闘”の翌日。

 インスマス号の艦橋にて、B・Bはセレジアに事の顛末を話した。


「そう、彼女は確かに『ミゼッタ』と呼ばれていたんですわね?」


「ああ」


 黒服の男たちと共に立ち去ったヴェルクという女は、セレジアの正体を知っていた。それに、ティレムスからずっとB・Bを尾行していたという彼女の告白が事実ならば、あの「天弦丸」という採掘艦の座礁も、意図的なものだったのだろう。


 セレジアは“ミゼッタ”という名を聞いて、しばし逡巡する。

 やがて心当たりがあるかのように、彼女はスマート・パッドを開いた。


「その人って、こんな顔でしたの?」


 セレジアが掲げたスマート・パッドの画面には、インタビューを受ける制服姿の人物──ヴェルクが映し出されていた。

 彼女の制服の胸元には、SAVIO社のロゴを模したバッジが張り付いている。


「こいつだ」


 セレジアは軽く息をついて、彼女の正体を語った。


「ミゼッタ・ヴェルク・ハールマン。SAVIOが擁する専属GS部隊『フレスベルグ中隊』の指揮官であり、中隊きってのエースパイロットですわ」


「知り合いか?」


「小さい頃のお友達ですわ。……どうして気付けなかったのかしら」


 と、艦橋のドアが開く。現れたのはバーシュ兄妹だ。

 話は聞かせてもらった──とばかりに、ジョニーが訊ねる。


「で、なんだってそんな奴が、新人開拓者の真似して喧嘩売ってきたんだよ?」


 セレジアは首をかしげて、唸る。


「わかりませんわ。昔から奔放な娘でしたのよ、ミゼッタは……」


_____________________________________


 同刻。カスバ造船工廠を発った天弦丸の甲板には、一人の女が立っていた。


 ミゼッタ・ヴェルク・ハールマン──B・Bたちに「ヴェルク」のミドルネームだけを名乗った彼女は、風の吹きすさぶ甲板から遠い水平線を見つめていた。


「ミゼッタ様! 船内にお戻りください、風がお体に障りますよ!」


 甲板にやってきた少年が、ブランケットを手に声を張り上げる。ミゼッタはそれを受け取ると、少年をその身を引きよせて、彼にブランケットを巻き付けた。


「わっ、ミゼッタ様……」


「キミにもお礼を言わないといけないね、カール」


 まだ幼い、見習い秘書にミゼッタは囁く。


「キミが偽造してくれた書類のおかげで、母上の目をどうにか誤魔化せたよ。いやぁ、あの青い人と()るのは楽しかったなぁ……」


「もう……お転婆(てんば)はこれで最後にしてくださいね。貴方様は我らがSAVIOの最高戦力であり、次の作戦においても、重要な役割を任されているのですから……」


 カールの頭を撫でながら、ミゼッタは答えた。


「分かっているさ。あの決闘は、その下見でもあったんだ」


 こつり、こつりとブーツの音を立てて、彼女は甲板の淵を歩き回った。

 カールが慌てて、手振りで艦橋に減速の指示を出す。


「ふふ。それにしても、その口ぶり。母上は遂に腹を括ったみたいだね?」


「はい。例の──()()()()()()()()()ですが、参謀閣下は計画を承認されました」


「そうか」


 ミゼッタは、降り掛かる水飛沫を手のひらに受けた。


「アルジャバールが実質的に支配する浮揚都市に、我が社の軍隊を駐留させる。当然、それを見過ごせない彼らは、実力行使で駐留部隊の排除に乗り出す」


 でも──、とミゼッタは続けた。


「オレたち『フレスベルグ』が、排除を食い止める。アルジャバール側は、ここで切り札を切らざるを得ない。彼らが持つ、最強の切り札(ジョーカー)こそが──」


 彼女は切れ長の眼差しで、遠い水平線(ホライズン)を再び見つめた。


「──青のゴールドラッシュ以来、初となる五大企業間の直接対決。この星のバランスシートが狂う歴史的瞬間だ。ああ……本当に楽しみだよ、カール……」


 甲板の淵に立ったミゼッタが、紅潮した頬を引き攣らせて凶悪な笑みを浮かべる。ブランケットを持ったままの幼い秘書は、彼女の殺気を前に動けなかった。


_____________________________________


 ──ゼニット・コンツェルン本社。


 うす暗い実験室のデスクで、ソフィア・リングは“ウィスパー”が行った諜報(スパイ)活動の成果を受け取ると、にわかに顔をしかめて訊ねた。


「へぇ、お姉さまが海洋民兵に入れ知恵を? そう……あの人が開拓者に……」


 自分に楯突いた愚かな姉は、家を追われ、会社を追われ、莫大な富と権力を失った挙句、哀れにも日雇いの傭兵モドキに成り下がったのだ。


 ──それは、良い。が……。


「まだ邪魔をしようというのね。私と、私のプロジェクトの邪魔を」


 ソフィアは湧き上がる怒りのあまり、奥歯を噛み締め、砕いた。


「やはり殺すしかないわ、あの人は……」


 シルクのハンカチに奥歯の欠片を吐き出しながら、ソフィアは言った。

 「それと、もうひとつだけ」と、通話越しのウィスパーが言葉を付け加える。


『いよいよ、SAVIOが動き始めるっぽいですよ。狙いはオクシリス、おそらくは()()()()()()で、アルジャバールとドンパチやりたくなったんでしょう』


「そう。それは使えそうじゃない?」


『えぇ。戦いの混乱に乗じて、ヴァルハラ・ホライズンの首は必ず刎ねてみせますよ。この僕と、僕の兄弟たち──貴方が作ったセカンド・ロットがね……』


 静かに言い終えると、ウィスパーは通話を切った。

 ソフィアは口の中に流れる血を舐めると、そっと呟いた。


「さようなら、お姉さま。あの世でお母さまによろしく……」

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― 新着の感想 ―
B・B、少し人間らしさを取り戻してきた……? カティアが、ナイアやジョニーでは感情で甘さが出るからダメみたいなこと言ってたし、戦闘での影響が気になるところです。 ソフィアサイドも気になりますね。母親…
色々と人間関係が見え始め、引き込まれますね。 今後のセレジア関連の展開も楽しみです。
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