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第七話:ブリーフィング「輸送艦護衛」

初めての昼投稿。よろしければぜひ読んでいってください。

いいね、ブックマーク等、大変励みになります。【作者より】

 省電力のために、うす暗く照明を落とされた格納庫。


 その中心に跪く《ブルー・ブッチャー》の胸部ハッチは解放され、さまざまなモニターとコンソール類が詰め込まれた窮屈なコクピットが露出していた。


 コクピットからは青白い光が漏れ、シートに座ったまま調整を続けるB・Bの顔を照らす。雇いの整備士たちは先に眠ってしまったが、B・Bはどうしても今日中に、この日の演習で感じた違和感を突き止めなければ気が済まなかった。


「……OSの白兵戦プログラムがアルジャバール製の射撃統制システム(FCS)と合っていない? だったらSAVIOサヴィオのFe:639に……いや、排熱性が下がる……」


 ぶつくさと呟きながら、頭の中でパーツの組み合わせを何度もシミュレーションする。その姿はパイロットというよりも、まるで本職の技術者だ。

 ややあってから、彼はひとつの答えを得たように、思考をメモに書き留めた。


「驚いた。B・Bって、二言以上喋ることあるんだね」


  と、気付けばコクピットを覗き込む人影があった。


「お前は……ナイア」


「よかった、ようやく覚えてくれたんだね」


 ナイアは軽く笑いながら、コクピットの縁に片肘をついて体を支えた。

 彼女の表情には朗らかさがあり、興味深そうに調整作業を見つめている。


 B・Bはモニターに目を戻し、パラメーターの細かな調整を続ける。ナイアはしばらく黙っていたが、好奇心が耐えられなくなったのか、おもむろに口を開いた。


「B・Bってさ、いつもこんなこと一人でしてるの? 休んだらいいのに。私なら絶対に爆睡しちゃうけどなー」


 B・Bはナイアの言葉に一瞬だけ反応を見せたが、すぐに視線をデバイスに落とした。ナイアはその素振りを楽しむように、また彼に話し続ける。


「そっかー。無口でクールなところもB・Bの魅力だよね。……ところでさ、明日の任務のこと、どう思ってる?」


「成功率は高い」


 B・Bは淡々と答え、手元の作業を黙々と続ける。


「そりゃそうだよ? だからセレジアさんも依頼を受けたわけだし」


 ナイアは黒いベレー帽の位置を直しつつ、「でもさ」と続けた。


「なんたって、五大企業からの初仕事だよ? 緊張とか、ない?」


 心配──というよりも、藍色の目をキラキラと輝かせながら、ナイアは語る。

 B・Bはわずかに思案し、それから基盤のひとつを取り外した。 


「……アルジャバールには敵が多い。それが今回の任務に影響する可能性はある」


 取り外したアルジャバール製のFCSプロセッサをカゴに放ると、B・Bはナイアを静かに見据えた。彼の瞳は虚ろで、吸い込まれそうな闇が広がっている。


「だが、今の段階でストレスを感じることに意味はない」


「そりゃそうだけどさぁ……」


「──どけ、作業の邪魔だ」


 ナイアは顔をしかめて、よっ、と立ち上がった。


「……怒らせちゃったか。B・Bを口説くのは難しいね」


「怒っていない。怒る理由がない」


「いやいや、怒ってるって。……ま、いいや」


 コツン、とブーツの底が、金属の床に軽やかに降りる。


「おやすみ、B・B! 明日のチームプレー、期待してるから!」


 そう言うと、彼女はリズミカルな足取りで格納庫を後にする。

 B・Bはその背中を見送ることなく、作業に没頭した。


_____________________________________


 ──明朝。


 セレジアは、ブリーフィングルームの中央に配置されたホログラム・マップを見つめた。投影されたデジタル海図には、幾つかのルートラインが描かれている。


 海図には、端に浮かぶ浮揚都市「オクシリス」と、出発地点となる「ティレムス」、アビサル・クォーツ輸送艦である「エフェスティア」号が示されていた。


 セレジアは振り返り、室内に集まったB・B、ナイア、ジョニーの顔を見渡す。


「さっそくですが、今日の護衛任務の概要を説明していきますわ」


 ホログラム光が部屋を青白く照らす中で、セレジアは静かに語り始めた。


「今回の任務は、アルジャバール・インダストリーの子会社、アルジャバール輸送が所有するクォーツ輸送艦・エフェスティア号を、ティレムスからオクシリスまで護衛することです。同艦には、大量のアビサル・クォーツが積載されており、敵にとっては格好の得物でしょう」


 セレジアはホログラムをズームインさせると、そのいくつかを指先で囲った。


「過去数週間に渡って、ここを通る同社の輸送艦が海洋民兵の襲撃を受けています。特にルートB付近での被害が多く、ここに敵の本隊が潜んでいるとみるのが妥当ですわね。当然、今回の航路ではここを避け、できるだけ大回りでオクシリスへと向かう予定です」


 バートラムが淹れた紅茶のカップを受け取り、セレジアは続ける。気が散っていたジョニーは、そのフローラルな香りが、本物の茶葉の高級品であるのだとすぐに分かった。


「次に、今回の作戦の布陣について説明いたします。まず、ナイア。貴女の《ダブル・ダウナー》はインスマスの甲板に固定し、砲撃支援を行ってくださいまし」


「ええ、なんで!?」


「貴女の機体だけ、巡航速度が合わないのですわ。……B・Bとジョニーは、エフェスティアの左舷と右舷にそれぞれ随伴し、周囲の警戒を行ってください」


「──了解だ」


 B・Bはすぐに返答した。ややあって、ジョニーも頷く。

 ナイアも不服ながら、了承したという様子だった。

 三人を改めて見渡し、セレジアは満足そうに動いた。


「では、質問がなければブリーフィングが終わりですわ。以降、各自で機体の最終点検をしておきなさい。出港は2時間後でしてよ」


 三人が部屋を出ていく中、セレジアはふと窓から空を見上げ、深い息をつく。


 ナイア、ジョニーの二人が参加したことで、セレジアのクラン──「ヴァルハラ・ホライズン」には戦術的な選択肢と、新たな仕事の“幅”が広がった。


 本来、アビサル・クォーツの探鉱を生業とする開拓者であるが、メルヴィルで繰り広げられてきた長い開拓競争の歴史の中で、彼らは次第に「傭兵」としての側面が強くなっていった。開拓者ギルドで斡旋される仕事には、採掘艦や採掘施設の護衛、占拠された鉱脈の奪還や、襲撃者への報復などの“変わり種”も存在する。


 今回、オービタル・リンクで競り得た「輸送艦護衛」もそれだった。


「……ゼニットと渡り合える力、必ず近づいてみせる」


 アルジャバール。メルヴィルの経済市場を支配する五大企業のひとつ。

 彼らとのコネクションは、今後のクラン発展のためにも是非とも築いておきたい。

 セレジアは再び席に着き、護衛プランの検証を続けた。

読者様からツッコミのあった「オレンジペコ」周りの記述を修正しました。

オレンジペコってオレンジの匂いしないんスね……。勉強不足です。

うろ覚えでこういう描写を書くものではありませんね……トホホ。

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― 新着の感想 ―
やっぱりナイアがいいなぁ。あまり社交的ではない相手にグイグイいく子は見ていて楽しい! オレンジペコって葉っぱのカットか何かで決める等級のことらしいですよ。オレンジのフレーバーティーだと思って買ったの…
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