フラれる
「あの、ずっと好きでした! 付き合ってください!! 」
誰もいない放課後の教室で、俺はこれでもかというくらい体を折り曲げてから愛沢すみれに告白した。夕暮れの光がカーテンの隙間から差し込んでくると、目をつむってる俺の真っ暗な視界に、オレンジ色が付け足される。
小学生最後の年、卒業式が終わってしまう前にあこがれの女の子に、初恋の子に思いを伝えよう、という俺の決意からの行動だった。学校一の美少女という、壮絶な相手に。
けど正直、結果は見えていた……
俺の予想通り、いつまで待っていても彼女からの返事が来ることは無い。差し出した右手を握ってもらえもしなかった。
友達だった頃は、あんなに手をつないでもらっていたのに。
俺はもう耐えられなくなって、目を開いて、はやく顔を上げようと思った。別に、愛沢すみれが目の前から姿を消していても、気持ち悪がっていてもいい。
フラれた、その事実は、ちゃんと自分の目で確かめたかった。だって、もしこのままだったら、俺は永遠に聞くことのない彼女の「喜んで! 」の言葉を待ったまま、こうして突っ立ってることになるから。それは、嫌だ。
「やっぱり、駄目、だよね」まるで自分を励ますように、ちょっと笑いながらつぶやいて、俺はゆっくり曲がっている体を起こす。
すると自然と顔も上がってきて、まっすぐ前を向いた。
気持ち悪がられて帰ったかな……俺はそう思っていた。告白してずっと目をつむってたから、多分、その間に。
と、そう心に言い聞かせてた俺の目の前には、愛沢すみれが涙を流して立っていた。
「え、え? お、俺、なにか、しちゃったのかな」
動揺して、俺は焦ったような声で聞いた。
「……すんっ……くっ……」
彼女は、小さく涙を流している。
「す、すみれ……」
「……う、うれしい……すごく、うれしい……」
「!! 」
「でも、ごめんね? 」
一応、フラれた……のかな……
「ほんとうに、本当にうれしい……だけど! ごめん!! 」
そういうと、彼女は机の上に置いてあった赤色の可愛いランドセルを背中にからわないで手に持って、走って教室を出ていった。泣き顔を見られたくなかったのか、顔をもう一方の手で覆っていた。
一人取り残された俺は、初めての失恋に胸を痛めたまま、何もせずに突っ立っていた。窓の外からひぐらしの鳴き声が入ってきて、教室全体に響いていた。
今日、好きじゃない日だな、心の中でそう思った。
あれから五年たった最近、この体験が特に登校してるときとかによく頭に思い浮かぶ。まるで映像見てるみたいに、あのワンシーンが何度も繰り返される。見たくもないホラー映画見せられてる気分。
なんでだろう? もしかしたら、道でよくカップルをみかけるからかもしれない。俺とおんなじくらいの学年で、人目も気にせず食べさせあいっことかしてるような。
まあ、過去のことくよくよしても仕方ないよね。
そう言い聞かせて、俺はいつものように桜木高校を目指す。朝のホームルームに遅刻しないようにしないと。
……こうして、何の変哲もない平凡な一日がまた始まると思っていてた。まさか、今日に、あの愛沢すみれとあんな形で再会することになるなんて、想像もしてなかった……
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