4話少女ルカの日常 2
「レナ…」
「ちっ…成金馬鹿が…」
「え?」
「大丈夫…レイドも家の事とかでイライラしてるだけだから…そういえば、北の砦でまた出たそうよ、銀の竜騎士が。私、あれ噂話と思ってたけど、本当にいたんだぁ~と思ってたわ」
「あ~、レナもそう? 私も噂話か絵本のことだと思ってた~~いや、本当にいるんだね、そんな人」
何やら怪しい気配を感じたルカだがレナに無理やり会話を変える。
ルカは竜騎士の話については下手に自慢気に話せば自分からボロを出すことは物語の本で身バレする定番として知っており、何度も身バレしそうな場面をシュミレートしてきた。
「そうそう…父様も母様も、すっかりその銀の竜騎士の事が気に入ってて…けど、姉様は「そんな正体を隠す、得たいの知れない者に、これ以上好きにさせない」って、顔を真っ赤にして怒ってて…」
レナの家は代々国の防衛に関わる家系だった。両親は上級役人として財務や環境整備で人々の暮らしを守り、レナの姉も剣の腕に自信があり18の若さで一つの騎士団の長をしていた。
しかも最近姉は、生きた魔物の不正な取引の調査で忙しく家にあまり返っていないから心配だ。とレナが愚痴をこぼす。
「貴族の家って大変だ…私は貴族じゃなくてよかったよ…」
「もう、他の貴族の前でそれ言っちゃだめよ。じゃ、またね」
二人は教室につく。席についたルカは先ほどのレナの会話を思いだしため息をついた。
(魔物の不正取引って…たく、魔物は危険だってわかってるくせに、馬鹿な連中は…)
魔物の死骸はドワーフが武具や兵器に加工に使えるため高値で売れる。
だが、魔物の中には毒や疫病を持つものもおり、しかるべき資格を持つ者が扱わなければ大被害になるため、取引は国どうしで厳重に取り締まっていた。
(ルカ、どうする? 魔物の匂いをたどれば、不正取引の場所わかると思うけど)
ルカの頭の中で遠くにいるギンの声が聞こえる。
(う~ん、まぁ。今日は様子見程度でいいかぁ…あんまり手をつっこみすぎると、騎士団とか貴族とかうるさいし。それに、次の契約の時のために残しておきたいからさ)
噂の銀の竜騎士銀の竜騎士)に手柄を取られ反感や怒りを持つ者もいる。
自分達が討伐、捕獲し手柄を立て出世を考えていた兵士や騎士。貴族や権力者の不正を勝手に暴かれて国の信頼を落とされ、その対応に追われた役人たちは勝手な事をする正義の味方の正体を暴こうと躍起になっている。
(人間ってすごい不便だね…)
ドラゴンとして高度な知識と知能を持つギンがぼやく。
ギンの声は契約しているルカにしか聞こえない。それに、ギンの持つ特殊な力のおかげで、魔物を切り裂く剣や、あらゆる攻撃が身を防ぎ正体を隠してくれる鎧を召喚してくれる。
ルカの身体能力や魔力もギンのおかげで化け物並みに強化されている。そのため、昨日砦で大暴れしてもルカは全く疲れがなかった。
だが、これらの能力は「契約」で成り立っている。
一週間に一度誰かを助けなければ契約が破棄されギンからの恩恵を受けられなくなる。そのため、すぐに犯罪組織や魔物を潰さず契約を持続させるためのストックが必要だった。
(世界でたった一体しかいないドラゴンにはわかんないでしょうが…まぁいいや。今日もよろしくねギン)
頭の中の会話を終え授業が始まる。
授業の合間の休憩時間にクラスメイトと今度の休みに遊ぶ約束をして、放課後はのんきに食堂で友人と談笑した。
やがて時間が過ぎ、深夜の学園の寮からルカはこっそり抜け出した。