17話 儀式師サラ
儀式はクラントリー王国だけでなく大陸中で禁忌とされていた。
かつてこの世界に高度な知能や知識を持ったドラゴンがまだ存在していた時代。
ドラゴンから得た知識を元に奇跡を生み出す術「儀式」を生み出した儀式師たちにより人々の生活は豊かになった。
人の手ではもう再生できないほど荒れた大地が緑豊かになり、疫病が広まった国の人々から病を取り除き儀式師たちは神とも英雄とも呼ばれていた。
だが奇跡には代償が必要だった。
儀式で奇跡を起こすには魔法陣や魔力の下準備だけじゃ足りない。
起こす奇跡に応じて誰かの生命。または意思や記憶など形のない大切な物を使う。
人々は自分達の豊かな生活が犠牲の上にあるのを知ると、儀式師たちを悪魔と罵り非難し始めてしまい、今でも人々の中では儀式と儀式師は悪と認識は根付いている。
「くぅ!! だから、竜騎士様は我が国の物だと…」
「ええぃ、とにかく!! さっさと小娘の身柄を確保すればドラゴンが手に入るのだ…」
「くぅ、傭兵どもは小娘一人も捕まえきれんのか….」
未だに学園内にて竜騎士を自分の物にしたい大人達が騒いでいた。
もし、彼らの手元に儀式師がいれば奇跡を起こし銀の竜騎士を意のままに操ることはできるだろうが、他人の生命や記憶、意思など犠牲にする外道に手を染めれば今の地位を失うどころか最悪、一族皆処刑される可能性がある。
心の中では儀式が使えれば隣にいる邪魔の命を使い、銀の竜騎士を手に入れられるのにと考える者は少なくなかった。
だが、既に儀式と儀式師は滅んでいると言われている。
そのため、儀式の力に頼りたくても頼れない状態だった。
とにかく金と権力、あらゆるコネを使いルカの確保に熱くなる大人達。
そんな彼らを冷めた目で見ながらレナは庭の方へ向かう。
「…ほんとうにくだらない」
まるで欲しいおもちゃを必死にねだる大人達に侮蔑しつつ、庭の方に向かうと怪しい光があった。
「まったく…奴隷商や盗賊から金目の物をくすねてたのね…はぁ…上になんて報告したらいいのかしら…」
現在も学園中で噂の中心になっている友人でもあり護衛対象であるルカに対して愚痴をつぶやいていた。
「はぁ…なんで私がこんな任務に…まぁ、姉さんのあの性格じゃ護衛と情報収集なんて向かないし…ん?」
庭に隠していたルカのへそくりの回収に庭につくと怪しい光があった。
光の傍には一人の女生徒。儀式師のサラがいた。
「あ、あなた!? 一体なにを…まさか、これは儀式!?」
国の要人護衛や防衛の家系で儀式について知識のあったルカが地面に書かれた魔法陣を見て叫んだ。
「へぇ~? 儀式の事知ってるんだ? 見たところ、同族じゃなさそうだし、国の犬かしら? 」
「まさか、あなた儀式師!? やめなさい!! 儀式はどんな理由があろうと禁止されているのよ!!」
ルカは腰からナイフを出しサラに向けた。
「へぇ? 儀式を知ってるんだ? けど、そんな綺麗ごとさぁ? そこらで騒いでる奴らに言えば? 噂の銀の竜騎士が欲しい欲しいって騒いでる馬鹿どもにさぁ!!」
サラが吠えた次の瞬間。魔法陣から一体の銀色の鎧を着こんだ騎士が出現した。
「りゅう、きし…さまぁ…」
サラに騙され魔法陣の中に消えていった少年がつぶやき、銀の西洋の剣を引き抜く。
「さぁ、あなたの願いを叶えたわよ…憧れの銀の竜騎士様の力になれたんだから…汚い権力者たちをしっかり掃除してきなさい」
サラが歪んだ笑顔で告げていると、レナがナイフを投げた。
ナイフはそのままサラに向かうが儀式により誕生した騎士がナイフをはじいた。
「りゅう、騎士様のために…邪魔ものは、排除する…ウォォォ!!」
銀の竜騎士に国を救われた事で生まれた、憧れの気持ちを代償にして、儀式により力を得た少年がレナに向かっていく。