16話 儀式の準備
夕日がだいぶ傾く中、学園内のルカ探索は続いていた。
「銀の竜騎士様は我がクラントリーにこそふさわしい!! 我が国では、かつてドラゴンと儀式で契約を…」
「だまれ!! そんな歴史の話などなんの証拠にならんわ!! 我が国こそ、銀の竜騎士様の助けが必要なんだぞぉ!!」
「何を言うか!? 自分の国の魔物討伐をほったらかしにしていたくせに!!」」
銀の竜騎士の居場所は自分達の国にこそふさわしい。と、かつてクラントリーがドラゴンと深くかかわってきた歴史を叫び正当性を叫ぶクラントリー王国の貴族の男が叫ぶが、他国と他種族へ力と名誉を誇示したいのが見えていた。
「ふざけるなぁ!! 偉大なるドラゴンを人間ごときが従えるなど認めぬ!! あの人間の小娘はいいからドラゴンをこちらで保護させろ!!」
「てめぇ!! エルフ!! 何言ってんだ!! どうせ、ドラゴンを飼いならして自慢したいだけだろうが!! あのドラゴンの爪や角を加工すれば、最高の芸術品ができんだぞぉ!! 誰にも渡してたまるかぁ!!」
「だぁ!! エルフとドワーフどもがぁ!! 偉大なるドラゴン様を自分勝手にしようとするなぁ!!」
ルカを求めて学園に集まったのは人族だけでなかった。
人族のみの学園にてエルフ、ドワーフ、獣族がルカよりも、ドラゴンであるギンをよこせと騒いでいた。
エルフは自分達以上の魔力を持ち、高度な知識と知恵を欲して。
ドワーフは世界で唯一のドラゴンからとれる貴重な素材から最高の作品を作るために。
獣人は神に最も近く自分達が崇高しているドラゴンを保護するため。
銀の竜騎士のルカよりも、その力の源であろう銀竜を欲していた。
全ての種族達の貴族や使者が集まり、騒ぎがどんどんエスカレートしていく。
魔物が活性化して困っている、犯罪者たちにより民が苦しんでいるから助けてほしい。
大人達は皆「私の国の方が困っている助けてほしい」と困ったアピールまでし始める。
そんな中、一人の人間の少年が困った大人達に声をかける。
「ま、まってください…竜騎士様は誰のものでは…」
「ええい!! 汚い平民が!! さっさとうせろぉ!! 」
「うぁ!!」
気弱そうで茶色い旅人用のローブを着た少年は、豪華なな服を着た貴族の人間の男に強く押されて倒れた。
「いたた…」
少年は一見ただの旅人に見えるが小国の使者だった。
彼の国は魔物の被害や犯罪者の横暴。さらに、今目の前にいる大国の貴族や使者たちに圧力をかけられボロボロな状態だったが一度、銀の竜騎士に助けられていた。
魔物を討伐してくれただけでなく、国を食い物にしていた犯罪者たちのアジトを制圧し救ってくれた英雄。
英雄の正体を知って国を代表して感謝の言葉を述べたいと遠くからこの国まで何日もかけてきたが、彼が目にしたのは英雄を自分の物にしたい醜い大人達の姿だった。
(…ひどい…皆、竜騎士様に助けていただいたのに…この人達、自分のことしか考えていない…)
倒れた少年は今も困ったアピールをして騒ぐ大人達を冷たい目で見た。
竜騎士の助けが無くても、エルフは魔法に長け、ドワーフも強靭な肉体を持ち、獣人は鋭い爪や牙を持ち自分でどうにかできるはずだが魔物の討伐にも犯罪者の捕縛にも金と時間がかる。
しかし、銀の竜騎士がいれば金も時間もかからず自分達に利益を運んでくれるため豪華な身なりに贅沢に膨れた腹を揺らす彼らは救世主を「利益を運ぶ英雄」にしか見ていなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
倒れた少年に手を差し伸べて声をかけたのは学院の女生徒だった。
「あ、その…だ、大丈夫です!! あ、ありがとうございます!!」
緑色の三つ編みで眼鏡をかけた。いかにも静かで真面目そうな少女を見て、少年は顔を赤くしながら慌てて立ち上がり少年はそのまま立ち去ろうとしたが。
「あの…もしよければ、あっちに休める所がありますけど…皆さん、銀の竜騎士様のことで落ち着かなくて…はぁ、ルカさん。一体どこにいるのかしら?」
少女がつぶやいた「ルカ」の単語に少年は立ち止まった。
「あ、あの!! もしかして銀の竜騎士様の事知っているのですか!?」
「え、えぇ…お、同じクラスメイトでしたので…そうだ…」
興奮ぎみに尋ねる少年。自分の国を救ってくれた英雄について少しでも話が聞けるならと少女と共に人気のない庭の端について行ってしまった。
「えと、実は私…ルカから頼まれごとを受けてて…もしよろしければ手伝っていただけませんか?」
「え?」
少女が少年の耳元で小声で話す。
「実は私…ルカさんに「大切な物」を取ってきてほしいと頼まれてまして…」
「た…大切な物ですか?」
「はい…ただ。その大切な物が見つからなくて…もしよければ、一緒に探していただけませんか?」
「ほ、本当ですか!? 銀の竜騎士様の大切な物を…」
少女の話が本当かどうかわからない。そもそも仮に本当だったとして自分がその「大切な物」を勝手に触れて良いのか? と悩むが少女に手を引かれてしまい手入れされた庭に来てしまった。
「早くしないと、ルカさんに渡せなくなっちゃう…そうしたら、もう二度と会えるかどうか…」
この少女に協力すればルカに会えお礼を言えるかもしれない。少年は期待を胸に少女に協力することにした。
「っ!? わ、わかりました!! えと、、大切な物とはいったいどんな物でしょうか?」
「え~と、確か…庭の中心…床に書かれた絵の中心に立てば分かるって言ってました…」
言われたとうりに少年は庭の中心の床に描かれた絵の中心に立つ。
「あの…言われたとうりに立ちましたが…周りは花壇と木だけでなにも…っ!?」
少年の立つ魔法陣から光が生まれる。
「な!? これは、まさか!? 儀式!? き、きみ!? 何を!? や、やめるんだぁ!! 」
「えぇ、確かにあるわよ…私にとって大切な儀式の生贄がね」
「う、うぁぁぁぁ!!」
儀式の魔法陣に飲み込まれ少年は「りゅ、竜騎士、様…」と告げ姿を消した。
「ふぅ…あの女の名前を出したぐらいでこんなに騙せるなんて…英雄の評判も考え物ね…けどそのおかげで、いい実験ができるかいいか…」
少女ことサラは三つ編みを解き、かけていた眼鏡を地面に落とした。
儀式師は儀式により奇跡を起こす術を扱う一族。
儀式は 死者を蘇生させ操り、人の手では再生できない荒れた大地を生き返らせ自然の恵みを与えるなど奇跡を起こす。
しかし、その代償として生贄を必要とする外道な術だった。