1話 降臨する銀の竜騎士(シルバードラグナー)
123大賞2に応募しました。
身バレしたくない女主人公とドラゴンが冒険したり人々を救済する作品です。
かつてドラゴンにより人々が知恵と魔法を授かった異世界。
ドラゴンが降臨したとされる大陸の中心「クラントリー大陸」
大陸から北に離れた所に小さな島があった。その島は魔物の住む「魔島」と呼ばれ今日も魔物たちが人間やエルフ。ドワーフたちが住む大陸に向けて侵攻していた。
巨大な亀の魔物の背に獣の魔物たちが乗り海を渡り、空には人々の血肉を食らう肉食の有翼魔物たちがいた。
「なんて、膨大な数だ…今までの侵攻よりも規模が違うぞ…」
「くそぉ、あいつらいくら倒してもきりがねぇ…」
魔物たちの侵攻を防ぐための防衛要塞にてあらゆる種族の兵士や騎士。実力ある冒険者たちが息をのんだ。
中には逃げ出したい、家族の元へ帰りたいと弱音を吐くものもおり、寄せ集めの陣営はいつ崩壊しておかしくなかった。
だが、この防衛要塞が陥落すれば魔物たちは一気に大陸に乗り込み、碌な守りもない集落や村から先に魔物に襲われ人々の命が失われてしまう。
「くそぉ…こんな時に銀の竜騎士銀の竜騎士シルバードラグナーがいれば…」
「馬鹿野郎、あんなの噂話だろうが!! 現実を見ろよぉ!! 」
人間の兵士の誰かが言った銀の銀の竜騎士とは、ここ数年の間に突如現れた謎の女性のことだった。世界で一体しかいないドラゴンに乗り魔物や不正者を成敗する正義の味方。
大陸中で噂になり実際に助けられたという、平民や貴族。さらには王族までもいるが未だに誰かが作った妄想だろうと。鼻で笑う者もいた。
だが、海や空から迫ってくるおびただしい数の魔物を見れば誰だって現実逃避したくなるし妄想にしがみつきたくなる。
「「総員!! 戦闘態勢!! 」」
豪華な鎧に身を包んだ砦の司令官が声を張り告げると、砦にさらなる緊張が走る。
「数はあちらが上。しかも、巨大型の魔物も多数…圧倒的にこちらが不利…だが、ここで一体でも多くの魔物を道ずれにしてやる…」
真面目で実力のある司令官が覚悟を決めて剣を握った。
エルフの魔法部隊が詠唱を始め、ドワーフたちが自慢の大砲や投石器に球をこめる。
他にも機動力や俊敏性にすぐれた獣人族や力は弱いが数の人族が前衛に並び、魔物を迎撃する準備ができた。
上陸してくる魔物たち。大砲の有効射程距離を確認し、後は司令官が剣を掲げ戦闘開始を告げるだけ。
「「総員!! せんとう…」」
開始。と司令官が告げようとした瞬間。上空から眩い銀色の光が魔物たちに向け落ちる。
「な、なんだぁ!?」
司令官の男が強い光に目をきつく閉じた。次に目を開けた時には、上陸しようとしてた大半の魔物たちの姿が消え代わりに焦土と化した台地があった。
「な、なにが起きている…っ!? あ、あれは!?」
砦にいる者すべてが空を見上げた。彼らの視線の先には美しい銀の鱗を持つ銀竜シルバードラゴンとその背には鎧を着こみ顔を隠した女性の姿があった。
「うそだろ…銀の竜騎士ー…妄想じゃなかったのかよ…」
さっきまで銀の竜騎士を妄想と一蹴していた兵士が呆然としていた。太陽を背にした銀竜の美しい鱗が反射して輝いて見えた。
そのため人々はまるで天から神か女神が降臨したかのように思えた。
だが、魔物たちは同族を一瞬にて葬った銀の竜騎士に向け殺意を向け襲いかかる。
女性が魔物の大群に向け手を向けると、先ほどの銀色の光。銀の光シルバーレイが放たれ魔物達が骨も残らず消滅した。
彼女の背後から魔物達が迫る。
「はぁ!! 」
女性が声を張り、腰から一本の銀の剣を抜く。
「グォォォォ!!」
女性の戦意に同調して銀竜が吠え接近戦をしかけてきた魔物と戦う。
「あ、あれが…ドラゴン。なんてす凄まじい魔力だ…こんなに離れていても、我々エルフたち以上の魔力を感じる…」
魔物と戦う銀竜から感じる魔力に砦にいたエルフの部隊をまとめる女エルフが心底驚いていた。あのドラゴン一体だけでもこの大陸中にいるエルフの魔力の総量と同等、あるいはそれ以上なのがはっきりわかった。
銀竜の背に乗る女性の剣が、硬い体皮を持つ魔物たちを切り裂く。時折、魔物から吐き出された火球や鉄をも溶かす溶解液を食らうが剣も鎧もまったく欠けず傷すらなかった。
「おいおい…あの剣と鎧…なんつぅ強度してんだよ…あんなに魔物の体切って、攻撃食らっても全く欠けてねぇ…」
普段魔物の死骸を加工して武具を精製するドワーフたち。魔物の体がどれだけ硬く加工が難しいのか知っており、しかも材料確保で捕獲の際に攻撃がどれだけ厄介か知っているため女性の装備に興味を持った。
「グォォォォ!!」
銀竜の口から吐かれた蒼いブレスが海辺にいた巨大亀とその背中にいた魔物を次々と甲羅や骨の欠片も残さず消滅させた。
その隙に接近してきた有翼の魔物を女性が剣で切り裂いた。鋭い爪や翼から放たれたかまいたちの攻撃は受けるが鎧のおかげで女性は傷ついてない様子だった。
「あれが、この世界で唯一存在するドラゴン…すごい、本当にいたんだぁ!!」
「馬鹿野郎!! 人間!! ドラゴン様だぁ!! 気安く呼び捨てにするなぁ!!」
ドラゴンを崇拝する獣人族が怒り、注意された人間のほうが戸惑う。
砦にいる者は皆突然現れたドラゴンと人間に心奪われていた。
あの女性の正体は?
あのドラゴンとはどんな関係なのか?
どこからきたのか?
自分たちを救ってくれたヒロインに見とれている間、気づいたら侵攻してきた魔物の大群は一人と一体により全滅した。そして、戦いに勝利したヒロインとドラゴンは何も言わずにどこかへ去っていき、砦の中では勝利と英雄への称賛の声であふれていた。