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天使の梯子  作者: 桜空
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エピローグ

 復学してから三日、何事もなく日々は過ぎる。相変わらず周りの生徒は復学できたのが何か裏取引をしたんじゃないかとか脅したからだ、などと根も葉もない噂を立てているらしい。

 けれどこれまでと違うのはアイリらがそんなことしないと否定してくれているということ。

「退学と知って妹がどれだけ悲しみ泣いたことか。私言いましたよね、妹を泣かせたら罰を受けてもらう、と」

 体育館へと向かう途中でムクドリが話しかけてきた。以前言われた台詞と同じ言葉を。

「確かに言ってたな。約束した覚えはねえけどな。まぁアタシにゃ秘密なんかねえと思うぜ」

 以前も、そして退学と知った日にも言っていた。

「そして復学を知ってどれだけ泣いたことか。サングラスをしなければいけないくらい泣きはらして目を真っ赤にしたんですのよ、あのアイリが」

「嬉し泣きでもダメなのかよ!」

 どんな罰が下されるのか分からぬまま、だが弱みなどないシオンはいつも通りに体育館へと入っていった。

 体育館で全校集会の真っ最中、突如として暗転し真っ暗闇に包まれた。そしてとある映像が映し出される、それはある人物の部屋の様子だった。

 制服を着た銀髪のロングストレートに青メッシュの美しい髪をしたスレンダーなAカップ美少女がウサギに話しかけている。

「それじゃ今から学校に行ってきまちゅからね、大人しく待ってるんでちゅよ~」

「もっきゅ」

「うきゅぅ、ききゅ。うきゅううっ」

 よく分からない啼き声を上げてウサギにすりすりするシオン。ウサギをケージに入れてもなお今生の別れを悲しむかのように泣き続ける。

「ききゅぅっうぎゅっうきゅう!」

「え、なにあれめっちゃ可愛いんだけど」

「あれってウサギが鳴いてるの?」

「いやウサギは最初のもっきゅだけでしょ、多分」

「え。じゃああの可愛い鳴き声はシオンさんってこと?」

「嘘でしょ可愛すぎない?」

(やめてくれやめてくれやめてくれ、恥ずかしくて死にたい!)

「てか何でこんな映像があるんだよ! これ盗撮じゃねえのか、ムクドリ!」

「罰を受けてもらうと言いましたよ」

「くそが! おいさっさと止めろ」

「え~イメージとちがぁう。こんな可愛い一面もあるんだぁ」

「ねぇ、もっと怖い人だと思ってた」

「やめろその目を! そんな目でアタシを見るんじゃねえ!」

 かぶりを振り生徒らの声を振り切って走り出す。

「いいことを教えて差し上げますわ」

 体育館の出口横の壁にシャルロッテがもたれていた。

(もたれて待つの好きだなこいつ)

 なんてことを考えつつ促す。

「何だよ」

 半泣きの状態でシャルロッテを睨みつける。

「本棚の一番上の段。右から三番目を調べてごらんなさい」

 すぐさま家へダッシュして本棚を調べてみると隠しカメラが仕掛けられていた。

「あンの野郎、何でこの家が盗撮されてんだ!」

 発狂しそうだった。

 数日前に感じた違和感はこれだったのだ。自分で購入した覚えのない分厚い辞書が本棚にあり、その中身が繰り抜かれてカメラが仕込まれていた。

 ただこのカメラによって決定的瞬間が撮れてラインハルトを退学へと追い込めたことをシオンは知らない。

 だがこの一件以来彼女への見る目は一変し、怖いだけの天使と思われることは少なくなっていった。

「あ、シオンさんだ。あの可愛い声で鳴いてくれないのかな」

「ね~あれ可愛かったね」

(くっそぉ、どうしてアタシが可愛いだなんて……っ)

 恥ずかしいものの、以前の恐れられている時よりはマシだと思えたが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 急いで下駄箱へ走り靴へ履き替えて外へ出た。

「シオンさん、一緒に帰りましょう」

 そこへアイリが寄ってきて腕を組む。

「お、おいおい」

 ムクドリが見ているのではないかと焦るが、やってきたのはムクドリではなくマリンだった。今からプールへ向かうようだ。

「また今度勝負しようぜ。勝ち逃げはさせないからな」

 マリンが手を上げて去っていく。

「悪いがこのまま勝ち逃げさせてもらうよ」

「凄いですね、マリン先輩に水泳で勝ったんですか!?」

 アイリがさらに抱きつき尊敬のまなざしで見つめてくるが、その純粋な眼差しには胸が痛い。

「い、いや……まともな勝負では……なかった、かな」

 なんとか誤魔化す。さすがにあれを自慢できるほどメンタルが強くはない。

「あんまりくっつきすぎると処分されてしまいますの」

 ムクドリが背後からそっと囁く。

「うおぁっ!」

「怖いんだよいきなり話しかけられるとしかも不穏なことを」

 いつの間にか周りに人ができていた。

 そんな校門近くでの彼女たちの楽しそうな様子が生徒会長室の窓から見えた。

「貴女は覚えていないでしょうね、武道の体験入部で瞬殺したわたくしのことなど」

 天狗になっていたシャルロッテは別に部員でもなかったが、他の部員よりも強かったため特別に後輩と対決していた。そこで適当にあしらって勝利するつもりが瞬殺されてしまい、大変な衝撃を受けた。

 彼女がこのまま部活に入り精進を続ければとんでもないところまで辿り着けるのではと思ったのだが、何がどうなったのかその少女は部活に入ることもなく、また悪い噂が独り歩きし始めていた。

「せっかくわたくしと対等に立ち会える人物が出てきたというのに、あの時は残念でなりませんでしたわ」

 そこで孤立しないよう陰ながら協力してきたのだが、ようやく実ったようだ。

「随分と楽しそうになりましたわね。わたくしが生徒会長を務めている間、つまらそうな顔はさせませんわよ」

 それを遠巻きに見ていたシャルロッテが微笑んだ。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまたどこかでお会いしましょう、カレー好きの桜空でした。

あと最後のシオンの鳴き声ですが、本家の天音かなたさんは鳴き声ではなく『咳払い』みたいですけどね、こちらは鳴き声ということにさせていただきました。世界一可愛い咳払いだと思います!

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