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天使の梯子  作者: 桜空
4/8

勝負と陰謀

 今日はプールを覗くと昨日の先輩がプールサイドの縁に座り足でプールの水をちゃぷちゃぷしていた。じつにつまらなさそうだ。

「先輩、先輩は本当につまらなさそうにしてますね」

 さすがに先輩にあれだけのタメ口は不味いと判断して敬語にしてみる。

「は? うるっさい」

「何で水泳なんですか、天使なら空泳がメジャーじゃないですか」

「私の名前マリンって言うんだ」

「はぁ」

「で、マリンてのは地上の単語で海ってことらしいんだよね。それで水泳にした」

「なるほど。名は体を表す、に近い感じですか。素敵な響きですしその通りに泳ぎも上手くなってご両親は喜んでるでしょうね」

「ああもう大喜びだよ、うざいくらいにな」

 俯き小さく呟いた。これもまたプレッシャーの一つになっているのだろう。

「てか随分昨日と印象が違うな」

「先輩を敬わなければいけないなと反省しまして」

「そりゃ殊勝なことだな。昨日はどこの輩かと思ったぜ」

「そんなことより勝負しませんか、アタシと。先に向こうへ行って帰ってきた方の勝ち」

「あんたと? まともに泳げるの? まぁいいわ。どれだけ調子を落としていても素人には負けないから」

 五十メートルプールのスタート台に乗る。

「よーい、スタート!」

 二人同時に飛び込む。五メートルでは差がつかない、だが十メートルほどで徐々に差が生まれ始め、二十五メートルを過ぎると身体一つ分近い差ができていた。

(速過ぎだろマジで……!)

 懸命に泳ぐも差が縮まることはない。

「フンッ」

 そこでシオンはマリンの足首をわしっと掴み、空中へ放り投げた。

「どわっどわわ~! なんっげほっげほ! 痛ぅ~」

 いきなり水中から空中へ投げ出され空中へ放り出されたかと思うと、水面へと叩きつけられたマリンは痛がりながらも呆然とするしかない。

 その間にシオンは五十メートルを華麗にターンして戻ってくる。慌てて再び泳ぎ始めるマリンだったが差は縮まるものの依然としてシオンがリードしている。

 絶対に勝ってやる、そんな瞳で睨みつけ前方のシオンを追った。

 ぐんぐん縮まる差。けれどタッチの差でシオンが勝利した。

「はっはぁ水泳部のエースとやらも大したことないな!」

「あんなことされて勝てるわけないでしょ!」

 むきになって言い返してくるマリンが可愛くて仕方ない。

「誰も水泳で勝負なんて言ってないだろ、先に向こうにタッチして帰ってきた方の勝ち、そう言ったはずだぜ」

「…………」

 思い返してみると確かにその通りだった。

「いやっでも……普通水泳でしょ!?」

「水泳部のエースに何で水泳で勝負しなきゃいけないんだよ、つかそれで勝って先輩は嬉しいんですか?」

「うぐ」

 正論で殴られてぐうの音も出ないマリン。

「大したことなかったって触れ回ってあげますよ、先輩」

「久々に負けたな。……いやこれ負けになるのか? もう分かんないな」

 プールの水面に浮いたまま中央辺りまでゆっくり移動して水を身体で感じる。そのまま天井を見上げていると、あんなよく分からない負けだが悔しく思えてきた。

「つ、かま~えた」

 いつプールに来たのか、そっと水中に潜っていたシャルロッテが水面へ浮かび上がると同時にがばっと抱きついてくる。

「ちょ、やめて溺れる」

「わたくしは生徒が楽しく学校生活を送ってくれたらそれでいいのですわ。プレッシャーに押しつぶされるなんてことがあってはなりませんもの」

「よく言うよ、次も期待してますわって言ったのはどこの誰だよ」

「さあ、銀髪で男の水着を着ても違和感がなく気付かれないどこぞのひんにゅあひん」

 ごいんっ。物凄い音がしてシャルロッテの後頭部にどこからともなく天使の輪っかが飛んできて直撃したのだ。

「違和感あるに決まってんだろ、何でアタシが上半身裸で違和感ないんだよ。ンなわけねえつかむしろ全員アタシに釘付けになっちまうだろそんなの。鼻血でプールが血の海にならなきゃおかしいだろ」

「天使の輪!? 何で天使の輪が」

 輪の方に驚きわなわな震えるものの、シャルロッテを見やるとぷか~とプールにうつ伏せに浮かんでいた。ちなみに顔まで水に浸かってしまっている。

「会長、会長! 会長が死んじゃう!」

 慌ててプールサイドに連れて行き人工呼吸をしようとしたのだが、あまりに整った顔に本当にするか悩む。

 そこへ。どむっ。

「げぼあっあぃったあ! 何しやがりますの!」

「きゃんっ」

 お腹を踏まれて水を吐き出したシャルロッテが人工呼吸しようとしていたマリンと額をぶつけて痛がる。

 二人して額を抑えてそれぞれうずくまる。

「発情した猿みてえな牝顔して待ってんじゃねえ、このエロ生徒会長」

「ぬぁんですってぇー!」

「ぷっあははははははは!」

 これだけ笑ったのは久しぶりだった、それも声に出して笑うなどいつ以来かさえ覚えていない。

 腹を抱え涙を流して笑った。


 マリンが笑っていたその時、別の場所では闇が蠢き出そうとしていた。

「朝のあのクソ女どうにかしてギャフンて言わせてやりてえな」

「あいつはやべえよ、あいつたまに死神とか言われてるんだぜ、もう天使じゃねえよ」

「それに見ただろあのゴリラ並みの筋肉。もう関わらないほうがいいって。アッ君もやられちまったし」

「でもよ……」

 そこへ屋上の扉が開く。

「何だ、お前たちもあの女にやられた口か」

 金髪で甘いマスクのイケメンが現れた。

「ラインハルトさん!」

「じつは俺もあの女には恥をかかされてな。それで情報を集めたんだが、どうもペットが大好きらしい」

「ペットですか……」

「そうだ、そこでもっと情報を集めてもらいたいんだよ。確実に勝てるようにな」

「分かりました、何でもいいので調べておきます」

「頼んだぜ」

 にやりと嫌な笑みを浮かべた。


どうも、カレーが大好きな桜空です。

台風が三つ発生してますが大丈夫でしょうか。熱中症と大雨など気を付けてお過ごしください。

できるだけVチューバ―の名前は出したくなかったんですが、水泳部のエースだけはどうしてもマリン以外の名前が思いつかず、あの名前になりました。

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