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天使の梯子  作者: 桜空
3/8

シオンの日常

 翌朝、イチに挨拶してから部屋を出る。

「イチちゃぁんそれじゃあ学校に行ってきまちゅからケージで大人しくしててくだちゃいね~」

 白いもふもふのウサギを抱き上げケージの中に入れてから鍵をかけて家を出た。

 家を出てすぐに十歳前後の男の子が泣いているのを見つけてしまう。

「どうした、何かあったのか」

「えええ~ん飼ってる子猫のぴょん吉がいなくなっちゃったの~」

「ったく、ペットっつうか家族がいなくなる悲しさは分かるからな、一緒に探してやるよ」

 こうしたトラブルに毎朝のように巻き込まれてしまうのだ。巻き込まれ体質、もしくは主人公体質とでも言うべきか。

 十分から二十分ほど近くを探して回り、天使の梯子とは反対側だが公園の茂みを捜索していると、

「みゃ~」

 小さな鳴き声がしたので首根っこを掴んだ。

「っしゃ、見つけた。ほらこれだろ」

 白と茶色の身体をした子猫を男の子に渡すと頬にすりすりして喜んでいた。

「クロ~、見つかってよかったよぉ! ありがとうお姉ちゃん」

「クロ!? 白と茶色なのに? カフェオレとかなんかあるだろ。い、いやまぁ名前を付けるのは自由だけどよ」

 それからほどなくしてまたも、今度は少女が泣いていた。

「どうした、何かあったのか」

「えええ~ん、飼ってるドラゴンののんたが空を飛びまわって下りてこないの~」

「あれか」

 空中を悠々と飛び回る巨体が目に入る。

 天使の輪っかではなく手裏剣を構え、オーバースローで投げつけるとカーブしてドラゴンの後頭部にヒットする。

「しっ」

 地面を蹴り翼をはためかせて空を飛びドラゴンの首に乗る。

「おい。いつまで自由に空飛びまわってんだ、飼い主が泣いてるだろうが、さっさと地上に下りろ」

「ぐ、ぐわ」

 蛇に睨まれた蛙のような声で鳴いて頷き、地上へ向かって降下する。

「つかお前を怖がってさっきのクロが逃げ出したとかそんなオチじゃねえだろうな」

「がふがふ」

 地上にゆっくり降り立ち、言いがかりにぶんぶんと大きく長い首を振って否定する。

「何でそんなことが言えんだ? まぁいいや」

 ドラゴンの角を握り、ミシッと異音が鳴る。

「次飼い主に迷惑かけたらこの角へし折ってやるからな」

 涙目で何度も頷くドラゴン。

「もう大丈夫だよ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 少女と手を振って別れたところで昨日助けたアイリと遭遇した。

「あ……昨日はどうもありがとうございました」

「ああいいって、昨日もお礼言われたんだしそんな何回も言わなくても」

「いつもこの道なんですか?」

「いや……今日は猫を探してドラゴンを引きずり下ろしてたからいつもと違う道になってるな。いつも何かしらあるから早めには出てるんだけど」

「そうなんですね、ドラゴンを。凄いんですね。私はこの近くなので、折角ですから……一緒に行きませんか」

「ん、まぁいいけど。アタシが怖くないのか?」

「助けてくれた人を怖いだなんて言ってたら罰が当たりますよ」

 ふふっと笑う少女のはにかむ姿が可愛くて仕方ない。

(可愛いなぁもう、何でこんなに可愛いんだよ)

 話しながら天使の梯子へと向かう。

「シオンさんは人間と関わりたいんですか?」

「ん、ああ。この世界にはさ、アタシたちみたいに背中に羽のないのがいるんだぜ、空も飛べずにどうやって過ごしてるのか、寿命も百年足らずで何を考えてどう過ごしてるのか気になるだろ」

「わたしは、自分たち以外の種族は怖いです。何度も戦争してるって聞いてるし」

「そっか。でもアタシは授業でも習うけど、そうじゃなくて本物の人間が何を考えどう行動しているか、どの方向に進んでいくのか気になるんだ。だから人間に関わることがアタシの夢で、怠いけど授業も真面目に出てるんだよ」

「そうなんですね、凄いです」

「凄いか? 養成機関を出た奴はほとんど関わってるんだから凄くもなんともねえだろ」

「わたしにはそういう夢、みたいなものが何もありませんから。そうやって真っすぐ前を見てはっきりと言えることが凄いです」

 真っすぐな瞳で人間と関わりたいと言い、それから照れたようにはにかむシオンがアイリには愛おしく、また眩しくて仕方なかった。

「じゃあここでな」

 下駄箱で学年の違うアイリと別れる。

 つまらないが人間の常識を学ぶ、今日は生徒会長が絡んでくることもなく平和に進み、授業が終わると一度屋上へと向かった。

(屋上から部活をしてる奴らを眺めるのが結構好きなんだよな)

 そう思って扉を開けたのだが、今日は珍しいことに先客がいた。

 空のように青いショートカットの髪のボーイッシュな女性は体格のいい、というより逆三角形で何やらスポーツをしているようであるし、どうやら先輩のようだ。

 手すりに手を置いてぼけ~っと部活している人を見やる。

 カキーンと金属音が響き、特大のホームランをセンターが羽を羽ばたかせ飛んで空中でキャッチ。

「飛ぶのは禁止って言っただろ!」

「いやそうだけど、羽があるのに飛ばないのは意味分かんないよ」

「まぁそうだが。これも人間を学ぶために真似をしているんだからダメなんじゃないか」

「気楽そうだな」

「気楽にやってんだから当然じゃないの。てか誰がどうプレーしようが勝手だろ」

「私にはそれじゃ許されないんだよ! 優勝ばっかり期待されて二位じゃ残念だったねって。二位でも凄いだろ、あんたに期待され過ぎることがどんなことか理解できる!?」

 いきなりキレられて驚くシオン。

(アタシにここまで言ってきた奴は久々だな)

 というかいきなりキレられた記憶はない。

「理解はできねえよ。こんな見た目で誰からも期待されねえから。てか誤解されてばっかだし」

「じゃああんたに私のこと分かんないよ」

「そりゃ今日会ったばっかだし分かんないけどさ、誰かに辛いって話したのか? 誰にも話さねえで分かってくれとか無理だからな。ソースはアタシ。だぁれもアタシのこと理解してくれん。言う相手もいねえからどうしようもねえが」

「親友だったら……っ」

「無理に決まってんだろ、エスパーかよそいつ。大方優勝する先輩のことが羨ましくて自慢で、だから何も考えずおめでとうとか残念だったねとか言ってんだよ。そんだけだよ、それ以上の何もないから」

 ここまで言われるとは思ってなかったのか口をぽかんと開けてシオンを見つめていた。

「…………っ、あんたには分かんねえよ」

「ま、分かるわけないわな。適当に分かるよとか言われてもうぜえし」

 先輩が手すりをガンッと叩いて屋上を後にした。

 入れ替わりに生徒会長が入ってくるが、グラウンドを見ていたシオンは気付かない。

「今の、我が天使の梯子が誇る水泳部のエースね」

「うわっ急に現れるなよ」

 急に話しかけられて驚く。

「小さな頃から天界で一位二位を争ってきた表彰台の常連よ」

「へ~、そりゃ大変そうだ。何もないアタシとは真逆だな」

「わたくしは結構期待していましてよ」

「ははっ面白い冗談だな」

 その後もシオンは屋上から野球をしている生徒やサッカーなどの部活をしている生徒を見つめていた。

「あれだけ一緒にやってたら信頼されたりすんのかな」

 恐れられてばかりで信頼されたことなどないシオンにとって、信頼関係で成り立っている大人数でやる球技系の団体スポーツは羨ましい限りだった。

 ふと視線を感じたのか野球をしていた一人が屋上を見上げた気がした。

 その後もテニスコートや体育館など普段行かない場所を巡ってはただ見つめるという作業を繰り返した。

 運動は好きだ。ただ最初の体験会でボールを持っただけでコンタクトスポーツでは相手が寄ってこず、武道系では相手が逃げ惑うため何もできなかった。

 さすがにそこまでされた時はショックだったが。そこまで怖いのか、と。まぁ顔が怖いだけだろうと舐めて殴りかかってきた先輩を瞬殺したせいもあるかもしれないが。

 サッカーでは最初のシュートでキーパーを失神させてゴールを決めたせいもあるかもしれないし、バレーボールではサーブをした瞬間にボールが破裂してしまったことも関係あるかもしれないが。

「くぁ、眠い」

 後頭部で手を組み家路に着こうとしたのだが、生徒会長のシャルロッテが手すりにもたれて提案してくる。

「暇でしたら生徒会の仕事でも手伝ってもらえませんこと?」

「は? 嫌だよ面倒臭い。大体そりゃ生徒会の仕事なんだろ、アタシにゃ関係ねえよ」

「では私事なら頼んでもいいかしら。最近この辺りで子猫を探したりはぐれドラゴンを退治したりする銀髪で男みたいに胸がなくて格好いい貧乳のお姉さんにお礼を言っておいてほしいのですわ」

「おい、男みたいに胸がないとかそりゃ誰のことだよ」

「心当たりがあるんじゃないのかしら」

「大体ドラゴン退治なんてしてねーよ」

「誰も貴女だなんて言ってませんわ。ただ助けてくれたからお礼を言っておいてほしいとお願いされただけですの。貧乳のお姉さんありがとうって」

「お礼を言う態度じゃねえだろそいつ。大体今日の朝じゃねえか子猫とかドラゴンとか。今日の朝でもうお前にお礼を言っておいてほしいって言ってくるわけねえだろ。テメエ見てやがったな」

「まったく、あんなドラゴンの躾け方見たことありませんわよ、しかも天使の輪っかを投げ飛ばすだなんてはしたない」

「はしたないのか、あれ」

「貴女以外に投げ飛ばしている天使を見たことがありまして?」

 ない。一人もない。

 そう考えると冷や汗が出てきたのでいい子いい子するみたいに天使の輪っかを撫でてみる。

「地域から好かれることは悪いことではありませんわ。とにかく嫌われているだけではないということですの」

 本音はそれが言いたかったのかと思うが、そんなはずないんじゃないかという思いも生まれていた。けれどもしもそうなら嬉しい。やはり好かれるというのはいいものだ。

(だがこれが過剰な期待になると……辛くなるのか)

 好意も度が過ぎるとプレッシャーになると言われ真逆のような先輩のことが気になった。


暑い日が続いたかと思えば台風が三つ。どんな災害が起こるか分かりません、気を付けてお過ごしください。

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