08:霧雨
雨の所為で、サークルは中止だった。これくらい静かな降りならば強行することもできるけれど……それほど熱心な奴がいるとは思えない。
大学の学食はがらんと広かった。講義中のせいもあるだろうけれど外の薄暗さにあわせての演出みたいで、俺はぽつんと椅子に腰掛けたまま窓の向こうを眺めていた。
昨夜、あのまま保科にコンビニへ拉致されて……抜け出してまたあの場所に行ったけれどもう彼女の姿はなかった。――想像はしてたけど。
明日、と俺は言ったけど、彼女は答えなかった。……聞こえてた…よな? でもこの雨。彼女が来るかどうかもわからない。
ぼんやりと頬杖をついてそんなことを考えていると、ふいに俺は気がついた。今日彼女が来たとして。いや、来ない可能性のほうが高いんだけども。――俺、どうするつもりなんだろうか。初対面でろくに話も――そうだ、お互いの名前も歳さえも知らない。しかもいきなり抱きしめた男に言われてのこのことまた来るもんだろうか?
いや、それより俺は彼女を今日呼び出してどうするつもりだったんだ? 会ったばっかりの相手にいきなり惚れるわけもないだろうし――そうだよな、普通そんな呼び出しに応じるはずがない。
――っておい、なんでがっかりしてるんだ。別に彼女は俺の好みじゃないし、そういう眼で見てたわけでもない。
ぐるぐると考え出すときりがないとはこのことだ。結局ガラス窓の向こうでひそやかに濡れていく雨の景色を眺めながら俺がわかったことは。
――彼女が来ることは多分ないだろう、という可能性。でも多分、俺は行くんだろう。そして同じ場所でぽつんと彼女を待つのだろう。
ここにひとりでいるのと、それは大して変わらない気がしていた。