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闇夜の桜  作者: 香住
5/35

05:微笑

「息苦しい……?」

 その表情にどきりとしたあと、今度はその科白に心臓が跳ねた。――俺がさっき感じたことと同じことを思ってる。こんな満開の桜の下で、そんなことを考える人間は二人もいるのだろうか。ただただ、桜の天井を眺めて酒を飲む程度の奴らが多いってのに。


「――そう。息苦しいの。まるで急き立てられてるみたいに」

 彼女はそう言うと、見上げていたピンク色の天井からゆっくり、俺に視線を戻した。俺を通り越してどこか違う方を見ているような、そんな瞳。


 そこで俺は三回、どきりとする。なんていうか……別段俺のタイプだってわけじゃない。それに、眼を引くほど美人って程でもない。でも、その時の瞳の色に俺は惹き付けられる。


「変よね。桜の花は何も言わないのに――」

 黙っている俺の前で、彼女は初めて笑った。苦笑、と呼ぶような自嘲気味の笑みが唇の端に一瞬、刻まれる。

 笑うと雰囲気が変わる。ついさっきまで、儚げでどこかフワリと消えてしまいそうだった彼女が、初めて生身の人間なんだと言う印象に変わった。そうだ、彼女に満面の笑みは似合わない。どこか儚げで、微かな笑みが似合う。


「そんなこと――!」

 俺が言うと彼女はスイと笑みを消して、真顔で俺を見つめる。ダメだ、そんな風に見られたら、俺。

「ない……かもしれない。少なくとも。いや、俺は――」

「優しいんだ」

 うまく出なかった言葉を遮って、彼女が言った。もう幻想的なイメージは消えていて、彼女はその実体を持って俺の目の前にいた。

「ありがと」

 まっすぐ俺を見ながら、彼女はその瞳からぽろりと涙を一粒、零した。それが四度目。


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