05:微笑
「息苦しい……?」
その表情にどきりとしたあと、今度はその科白に心臓が跳ねた。――俺がさっき感じたことと同じことを思ってる。こんな満開の桜の下で、そんなことを考える人間は二人もいるのだろうか。ただただ、桜の天井を眺めて酒を飲む程度の奴らが多いってのに。
「――そう。息苦しいの。まるで急き立てられてるみたいに」
彼女はそう言うと、見上げていたピンク色の天井からゆっくり、俺に視線を戻した。俺を通り越してどこか違う方を見ているような、そんな瞳。
そこで俺は三回、どきりとする。なんていうか……別段俺のタイプだってわけじゃない。それに、眼を引くほど美人って程でもない。でも、その時の瞳の色に俺は惹き付けられる。
「変よね。桜の花は何も言わないのに――」
黙っている俺の前で、彼女は初めて笑った。苦笑、と呼ぶような自嘲気味の笑みが唇の端に一瞬、刻まれる。
笑うと雰囲気が変わる。ついさっきまで、儚げでどこかフワリと消えてしまいそうだった彼女が、初めて生身の人間なんだと言う印象に変わった。そうだ、彼女に満面の笑みは似合わない。どこか儚げで、微かな笑みが似合う。
「そんなこと――!」
俺が言うと彼女はスイと笑みを消して、真顔で俺を見つめる。ダメだ、そんな風に見られたら、俺。
「ない……かもしれない。少なくとも。いや、俺は――」
「優しいんだ」
うまく出なかった言葉を遮って、彼女が言った。もう幻想的なイメージは消えていて、彼女はその実体を持って俺の目の前にいた。
「ありがと」
まっすぐ俺を見ながら、彼女はその瞳からぽろりと涙を一粒、零した。それが四度目。