03:平衡
妙な盛り上がりを見せる団体からすっと離れると、急激に静かになったような気がする。すぐ傍で仲間たちが笑い声をあげているのも隔離された空間みたいだ。妙に冷静になるのは――まだ酔っていないのか?
手の缶ビールを所在なげに掴みなおす。このままコンビニには行けないから……どこかで処分するか。
キョロキョロと見回すも、ピンクの天井の下で頬を染めている奴らばかりで、なんだか落ち着かない。仕方なく、コンビニへ出る道から外れてちょっと奥まった広場に出た。
予想通り、こっちには人影もまばらだ。桜の木はそれなりにあるんだけども。
柵になっているような石に腰を下ろして、そこでふっと息をつく。ああやって騒ぐのも悪かないけど、こうしてゆっくり見上げるのもなかなかかもな。
事実、さっきまで天井を飾ってたピンクの花たちからは華やかさと晴れがましさを感じていた。なんつーか…誇らしげに咲いている、っていう感じだ。でも今は、こうしてひっそりと見上げてみるとなかなか奥ゆかしく、密やかに咲いているように見える。
恥ずかしそうに頬を染める女性のようなイメージをそれに抱いて、俺はひとりドギマギして缶ビールを口に運んだ。苦いだけだ、と思っていたのも、今じゃうまいと思うようになっている。
人間、そんな簡単には変わらないはずなんだがな……俺なんか特に、どんどん周りから置いてかれてるような気もしないでもない。
そこそこの大学に入って上京して、適当に勉強してバイトしてサークルで遊んで……典型的に過ごしてきたとも言えるだろう。今じゃそこそこの企業の内定ももらって、しばらくは遊んで過ごせる。
そう考えても、俺の気分はあまり晴れない。置いていかれている、という具体的事実はあまりない筈なのに、何を焦っているんだろう。そりゃ、今彼女はいないけれど――半年前にフラれはしたけど、それなりに楽しんだとも思ってるし。
弱気な思いを抱いて桜の天井を見上げると、今度は彼女が大きく存在誇示をしているような錯覚に囚われた。
一瞬、それを息苦しい、と思ってしまった自分に驚いた。