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闇夜の桜  作者: 香住
26/35

26:自制

 ぼんやりと歩いた道は、気がつけば桜の公園へと辿っていた。勿論とっくに俺の両腕に温もりが残っている筈がない。頭の中は、保科が最後に言った言葉がぐるぐると回っていた。



 抱きしめた腕の中で、保科が言った。

「もし言わなかったら、私、ずっと可愛い後輩でいられました、か?」

 俺がびくりとしたのがわかったんだろう。保科がゆっくりとした動きで俺の腕を外す。

「好きだって言わなかったら、ずっと好きでいても、良かったのかな……」

 保科はもう、泣いてはいなかった。真っ赤になった眼を、恥ずかしそうに伏せると力なく笑う。

「諦めなくても、良かったのかな」

 淋しげに見えた笑顔ははらりと儚く消えた。それ以上保科は何も言わず、俺も何も言えず、そのままだった。



 涙は彼女を思い出させる。赤くなった眼。頬の涙のあと。

 俺は? 俺はどうなんだろう。俺は彼女に拒まれたことで諦めなくちゃならない? やっと気付いたのに――それと同時にこの思い、葬らなきゃいけないのか? あんな不器用なやり方でしか彼女に伝えられなくても? いや、もしどんなにうまく伝えることが出来たとしても、彼女が答えてくれなきゃ意味がないんだ。応えてもらえない思いを、俺は殺してかなきゃいけないのか?


 ……それは、嫌だ。


 そんな感情が俺の我侭だってこともわかっている。俺がどんなに思おうと、彼女がどう思っているか――あんな風に逃げられてどうもこうもないんだろうけど、それでも、彼女の思いがなければ意味がない。



 溜息をついた反動で見上げる夜空に、桃色が見える。さわさわと夜の風になびいて、桜が泣いていた。

 彼女――泣いていないだろうか。ひとりで泣いていないだろうか。大丈夫、なんて表で笑いながら泣いていないだろうか。


「なんか俺……全然駄目駄目」

 考えているだけで何かが出来るわけでもない。保科のこともそうだ。何かあいつにしてやれるわけじゃない。結局、宙ぶらりんで何も出来ない。

 こんなときにひょっこりと彼女に会えたなら、偶然って奇跡を信じてみたくなるのに。神様が本当にいて、俺たちを見ていてくれていんだって信じてもいいのに。

 桜並木はただはらはらと花びらを降らせるだけで、そのどこにも、彼女の姿は見えなかった。


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