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闇夜の桜  作者: 香住
23/35

23:怒気

 ケータイの向こうは絶句したまま、沈黙した。――そりゃ、そうだよな。


「ごめん、あの、俺……」

『同情、ですか?』


 嫌にはっきりとした声音で、保科が言った。一瞬その意味がわからなくて聞き返そうとした刹那、やっとで脳味噌に意味が通る。


『私に同情しているんですか? 失恋して、落ち込んでるから?』


 冷たい印象の声は今度ははっきりと怒りの色を仄めかす。いつもの快活な笑い声とは全然違う。


「保科、あのな」

『同情なんかされたくないです。特に、先輩には』

「待てよ、落ち着い――」

『そんな風に中途半端に優しくしないでください。私だって、私だって……』


 キツい口調で一気に言うと、最後は嗚咽に変わった。



 いつも明るくて元気で、なにかというとからかってた。そんな保科の反応が見たくて、可愛くて――それが恋愛感情かっていわれると正直、迷う。彼女のように強烈に惹かれるところはないにしても、保科と一緒にいるのは楽しかった。



「保科」

 返事はない。気配だけが漂っている。

「ごめんな。……って、俺が言うのもおかしいんだろうけど」

 送話口の向こうで、ふっと空気が緩んだような感じがした。いつもするような、苦笑。

『……そう、ですよ。先輩がそんなこと、言うの、おかしいんですからね』

 泣き笑いみたいな声、強がってるのはわかってる。そうだった。いつも生意気な口を利いて、笑って、そのくせどこか危なっかしくて。


「大丈夫か?」

『だから……先輩がそんなこと言っちゃ、駄目、なんですよ? 私、諦められなくなっちゃうじゃないですか』

 言葉の最後はまたこみ上げてきたらしい涙に包まれていた。


『何で来ちゃったんですか。何で電話なんかするんですか? 私まだ、先輩のことが好きなんですよ? 来てくれたりしたら、余計な期待、しちゃうじゃないですか。駄目ですよ、もう……』

 保科の涙声が一気に響くといきなりツーツーという電子音に変わって、俺は慌ててリダイヤルをかける。放っておけない。おける筈がない。俺の所為だったとしても、放っておきたくない。


 耳には無表情なアナウンスが響く。『電波の届かないところにおられるか、電源が入っておりません』



 俺は衝動的に階段を上がって、ドアチャイムを押した。三回続けざまに押したあと、カチャリと鍵の外れる音がした。


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